最高裁判所第二小法廷 昭和26年(オ)214号 判決
原判決は、本件買収申請人吉中亀楠は、自創法による買受農地二反六畝を含めて、計四反余の農地を耕作して農業に従事し、本件宅地上の本件建物を上告人から賃借して、妻子等とともに居住し、農具、農産物等をこれに収納して、農業経営の目的に使用している事実を認定し、本件宅地建物は同人の農業経営に必要なものであるとし、自創法一五条一項二号による宅地建物の買収は農業経営に必要な賃借物件であれば足り、上告人主張のような密接又は従属の関係を要するものでないから、本件宅地建物の買収は適法であると判示した。
なるほど、同法条による宅地建物の買収についてその宅地建物と買収農地との間に必ずしも立地上密接従属の関係を必要とするものでないことは判示のとおりであるけれども、その宅地建物が農業経営に必要なというには、その必要の度合いにもいろいろあるのであつて、自創法は昭和二四年法律二一五号によつて改正され同一五条に第二項が加えられ第一項による買収のできない場合について規定を設けたのであるが、右は賃借物件が農地経営に必要なるべき度合いを示す一の基準であつて右改正前の買収についても、同項所定の各号に該当する事情のある場合のごときは、同条第一項による買収の「申請を相当と認め」るべき場合でないものと解すべきである。
しかるに、本件においては、上告人は、原審において、同条第二項の一に該当する場合あるものとして、諸種の事実関係を主張したことは、原判示により明らかであるから原審としては、果して同条第二項に該当するごとき事実ありや否やを確定した上で、本件買収の適否を判断しなければならないのである。原判決がこの点の判断を欠いていることは違法であつて論旨は理由あり、原判決はこの点において破棄を免れない。
よつて、他の論旨に対する判断を省略し、民訴四〇七条を適用し全裁判官一致の意見を以て主文のとおり判決する。
(裁判官 霜山精一 栗山茂 小谷勝重 藤田八郎 谷村唯一郎)
上告代理人弁護士島本哲郎、同坂本憲三の上告理由
第一点
一、最高裁判所昭和廿四年(オ)第五三号(集第四巻第七号三二五頁)事件判決に依れば「買収される宅地は必ずしも農地に密接又は従属している必要がなく、農地経営に必要な宅地、建物であれば足りるものと解するを相当とする」旨を判示している。それで「密接又は従属」という意味と「農地経営に必要」という意味を更に究明しなければならぬ。
二、その根本において自作農創設特別措置法(以下法と略称する)第十五条は従物理論に支配されていることは疑いない。もちろんそれは必ずしも物と物との関係だけでなく物(農地)と権利(例えば水の使用に関する権利)との関係にも及んでおり、また従物も主物を離れてでも独立せる経済的価値を有する物をも含んでおり、従は主にしたがうという民法上の理論では解決はつかないので法第十五条の特別規定を設ける必要を生じたのであるが、その根本思想は従物観念にあることは学者の意見も殆んど一致しているところである。
右判例の第二審判決に於いて「右第十五条第一項第一号には第三条の規定により買収する農地の利用上必要な農業施設とあつて農業用施設については買収される農地との間に本来従属的関係のあることを必要とするが第二号掲記のものについては、この制限すらないことによつても、その趣旨が窺われるのである」といつておるのは盲断も甚しい。「農地の利用上必要なこと」と「本来従属的関係あること」とを全然同一の観念と見て、第一号の場合には農地の利用上に必要なることを要するが、第二号の場合にはそれすら必要がないといつておるのは何を意味するか、第二号の場合にはいかなる宅地建物といえども、例えば都会地における宅地建物も、あるいは甚しく遠隔の地に於ける宅地建物も、または宏壮美麗な洋式建物も、苟くも農民が賃借せる限り農地の利用上必要なると否とを問わず悉く買収の対象たり得るものと解するのであろうか。これは極端に非常識な解釈であつて農民と非農民との間にあまりにも懸絶した差違を認めることになり、自作農創設特別措置法の範囲を逸脱したものと云えよう。
法文にも「同条第一項第二号」に「第三条の規定により買収する農地に就き自作農となるべき者」という制限を加えた趣旨にも反するであろう。
三、そこで問題は農地と宅地建物との場所的関係だが、前記最高裁判所の判例は「買収される土地は必ずしも農地に密接又は従属している必要はなく農業経営に必要な宅地であれば足りる」としている。一般に主物と従物とは、殊に動産にあつては、特定の主物に附属すると認められる程度の場所的関係にあることを要すとせられる、これは不動産においても、多少の相違はあつても大体同様に解しても差支はない。しかし同様の関係が農地と附属物との間にも必要とすれば法第十五条の適用する場合は極めて少いと云わねばならぬ。溜池農場の小屋等はその典型的のものだが法第十五条をこれらのものに制限すべきだとは上告人といえども主張はしない。
すなわち従物理論もこの点はある程度の拡張解釈に従わねばならぬ、改正法第十五条第二項も宅地又は建物の位置環境及び構造等により買収を不適法とする場合には買収より除外する旨を規定しているのは場所的関係が従物より範囲が広いことを示しているのであつて、判例が「必ずしも農地に密接又は従属している必要がなく」というのはその意味であると解釈しなければならぬ。それは飽くまでも「農業経営に必要な宅地建物」であらねばならず、社会観念上農地が主で借地借家が従たる性質を有する場合でなければならぬ。すなわち農地と宅地建物とはやはり広い意味の従属関係が必要であり、たゞ場所的関係において緩和せられるのみである。
一体農地経営に必要なりというのはどんな意味かは自明のようで決して自明ではない。法第十五条第一項第一号の場合はその必要なことは直接的であるが二号の土地建物の内溜池農業上の小屋なんかは直接的だが住宅はまず住むことが直接的で農地経営上の必要は間接的だともいえる。そこで住宅が農地経営上必要だというのは第一審判決のいうように直接的必要不可欠性と見るのはいい過ぎであろうが、また、どこで住まつても大して変りがないが、主に他の商売のために必要だが農業のためにも便利がよいというだけでは充分ではない。これを反面からいえば農業の経営が主たる目的で居住していなければならないし将来農業を廃し農地を処分すればその住宅もその農地を買受けた人に譲渡するのが妥当であるというような関係がなくてはならぬ。それがためには買収された農地(従来小作していた農地)を経営するがために賃借していた住宅やその敷地は距離は相当遠くもこの要件にかなうであろうし、然らざれば農地に接近していて客観的にその農地を耕作するにはこの住居が必要であると認められる場合でなくてはならぬであろう。
最高裁判所の判例が「必ずしも農地に密接又は従属する要はなく農地経営に必要な宅地建物であれば足りる」と述べたのは此の趣旨であると信じる。
四、そこで本件では法第三条の規定により買収する農地は二反六畝であるが(爾余の小作地二反内外は買収の要件とは関係がない)その農地と買収する土地建物との距離は証人吉中亀楠の証言によると宇須波原の一反四畝十八歩までは約六丁、同所橋詰七畝までは約五丁、同所平家四畝までは約七丁ほどあると述べている。
単にその距離のみから云えば或は買収の要件を充たすかも知れない。しかし距離ばかりが買収の要件ではない。一般的に買収せられる土地建物は農地の附属物でなければならぬ。ことに宅地五七坪二合五勺建物九坪二合及び十坪五合の二種が二反六畝の農地の附属物であるとはどうしても考えられぬ。むしろ価格からいつても利用価値からいつても土地建物が主で農地は従たる地位にあるといわざるを得ない。殊に宅地建物を吉中が賃借したのは大正三年頃のことであつて当時は豆腐製造を専業にしていた。彼が売渡を受けた農地を小作していたのは昭和十九年で、この小作地のために賃借権を設定したという関係にあらざることは勿論である。(吉中証言)これらの点を看過して単に距離のみに着眼して買収を適法としたのは違法の判決といわねばならぬ。
第二点
一、原審判決甚だ簡にしてつまみどころがない。しかし訴外吉中亀楠が自作農創設特別措置法によつて取得した農地は訴外坂口豊所有の田二反六畝だけであつて(第一審吉中亀楠証言)その外にはない。もちろん上告人から取得したものは一つもないことは弁論の全趣旨から明らかである。
二、しかし買収の要件としては買収すべき農地と宅地建物とが同一の所有者に属することを必要とすることは法律の予定しているところである。
これは従物理論によつても当然のことであるが自作農創設特別措置法第十五条も「第三条の規定により買収する農地(中略)につき自作農となるべき者が(中略)左に掲げる(中略)土地又は建物を政府において買収すべき旨の申請をした場合において(下略)云々」と規定し第一号では「第三条の規定により買収する農地(中略)の利用上必要なる農業用施設、水の使用に関する施設又は立木」第二号では「第三条の規定により買収する農地(中略)につき自作農となるべき者が(中略)賃借権(中略)を有する宅地又は賃借権を有する建物」を買収し得べき旨を定めている。それは直接には農地と宅地建物とが同一所有者に属することを要するという明文上の根拠がないというかも知れぬが「第三条の規定により買収する農地につき自作農となるべき者が賃借権を有する宅地建物」というときは自作農となるべき者が、その買収せらるべき者(すなわち地主)から賃借権の設定をうけた場合と解することは当然の解釈である。もし農地と宅地建物との所有者が別異の人に属するときは農地の買収の以前と以後とによつて宅地建物の所有者の地位には何等かわりがなくただ農地の小作人の地位が自作農に代るだけである。即ち第三条の規定による農地の買収のあつたが為めに農業経営上特に宅地建物の所有権を取得すべき必要は増すこともなければ減ずることもない。その農地の買収に無関係な純然たる第三者の宅地建物をも買収できるというがためには充分首肯するに足るべき特別の合理的根拠がなければならぬ。
(農地と宅地建物とが同一所有者に属し後者が前者の附属物であるとすれば自作農となつた者からいえば宅地建物の所有権を取得するのは農業経営上多くの場合必要であろうし、第十五条改正〔昭和廿四年六月二十日〕以前では農地の所有者としても農地が買収されゝば不要となつた宅地建物も一緒に買収されることを希望するのは、これまた当然の事理であつただろう)すなわち自作農となるべき者は当該農地の所有者に属する宅地建物を農地と共に買収すべき旨を請求出来るのであり、又右本条改正前では当該農地の所有権を有する者のみが自己の有する宅地建物をも同時に買収すべき旨を請求することが出来たのである。もし然らずして農地の所有者と宅地建物の所有者とが異るときには農地の所有者が他人の宅地建物の買収を請求し得ると共に宅地建物の所有者は却て買収請求権がないこととなり頗る不都合なる結果となるであろう。これは農地の所有者と宅地建物の所有者とが同一人であることを前提とした規定である。
右本法改正は農地の所有者から買収の申請をなすことは実際上稀有のことであるからこれを廃止したこと、並びに自作農となるべき者が農地売渡を受けた時から一定期間内に買収申請をなさなければならぬことを新たに規定したものであつて、農地と宅地建物に関する根本原理までも改めたものでないことは云うまでもない。
この法理を無視し農地と宅地建物とが別異の所有者に属する場合にも宅地建物の買収が出来るとしたのは法令を不当に適用したものとして破毀を免れないものと信ずる。
第三点
原判決は自作農創設特別措置法第十五条の規定を根本的に曲解した違法がある。原判決並びに第一、二審の被上告人の主張は、法第十五条は篤実な農民のために住居の安定を与え以て専心農業にあたらしめようというにある。しかし住宅問題は単に農民だけの問題ではない。一般農民はむしろ住宅問題には恵まれているのであつて非農民殊に都会地の市民こそが住宅払底に悩ませられていることは顕著な事実である。住宅問題を解決する必要ありとすれば農民、非農民を問わず、一般的な改革を要することである。被上告人主張のようだとすれば、これは自作農創設特別措置法の目的を逸脱せるものといえよう。もしそうでなければ法第十五条に第三条の規定により買収する農地若くは第十六条第一項の命令で定める農地について自作農となるべき者と限定する必要はなく一般的に農民(小作人及び第三条の規定により買収する農地以外の自作農)のすべてに適用せらるべきであろう。それに宅地建物が農業用施設、水の使用に関する権利などと一緒に法第十五条の一部分として規定を設けたのは、これらは法第十五条列挙の物件は農地の附属物たることを示したものであつて一般的に農民の住宅問題を解決したものではないのである。
農林当局は一般的に宅地建物の解放だといつて農民に勧誘指導してきたらしいが思わざるも甚しいものといわざるを得ない。ことに昭和廿四年六月二十日の改正で農地の売渡を受けたる日より一ケ年内にその権利を行使することを要すと定めたのはこの中途半端な従物が長く法律関係を不安定な地位におくことを避けようとしたのであつて、住宅の解放という理論では到底説明はつかない。
そもそも農地の改革もわが国に於ける封建制度の残滓を打破すべき画期的な立法であつたであろう。しかしながら、それと共にあるいはこれにもまして個人の基本的人権や財産権の保護は民主々義の基調としてこれを尊重しなければならぬ。われわれは一つの法律だけを偏視してはならぬ。
原判決は法第十五条一項の規定を根本的に曲解した違法がある。
第四点
昭和廿四年六月二十日法律二一五号により自作農創設特別措置法第十五条第二項は左の如く改正された。
政府は左の一に該当する場合は前項の規定による宅地又は建物の買収をしない。
一、宅地につき賃借権使用貸借による権利若しくは地上権を有する者並にこれらの者の同居の親族及びその配偶者の主たる所得が農業以外の職業から得られる場合。
二、宅地又は建物の所有者が近く自ら使用することを相当とする場合。
三、宅地又は建物の位置環境及び構造等により買収を不適当とする場合。
この改正規定は決して新規な創設的な規定ではなくして従前よりの法則を単に明文を与え、往々にして陥るべき宅地建物の買収のやり過ぎを防止せんとしたものである。例えば農業が副業である場合宅地建物が農地に比し主たる地位を占める場合の如きは、従前と雖も宅地建物の買収の申請を相当と認めなかつたのである。
上告人は訴外吉中亀楠は(イ)の家に住み農業を営み、吉中政治は妻子と共に(ロ)の家にすんで五千円の月給取りをやつているから(亀楠証言)別個の世帯に属すると考えているが(従つて(ロ)の宅地建物についてまで買収したのは、ますます不当と考えているが)よし同一世帯に属するとしても(1)、(ロ)の建物は農業経営上必要なものといえないし(2)、外勤五千円の収入ある政治の家は農業以外の職業から主たる所得が得られているのであり(二段六畝そこらの農業上の収入は闇取引をやらない限り僅少なものである。又農繁期に政治の妻が手伝に行くぐらいのことは自ら農業を営むものではない)(3)、上告人が少くとも(ロ)の家を自ら使用する必要のあることは第一、二審の上告人本人の訊問によつて明かなことであり(4)、殊に農地二反六畝のために宅地五十七坪二合五勺建物総計約二十坪の買収をなさんとするが如きは農地と宅地建物との距離と相俟つて買収の行き過ぎであり、これが買収を相当と認めた被上告人の裁決はどの点からいつても適法ではないと考えるのである。上告人は単に距離のみを非難しているのではない。もとよりこれらの事実問題は原審の専権に属することは明らかであるが、かくして決定された事実が果して法第十五条一項の農地委員会がその申請を相当と認めたときに該当するや否やは法律上の価値判断の問題であつて法律問題である。そしてその判断が正当の理由を欠いたという点で原判決は破毀を免れないと信ずる。
以上
第一審判決の主文および事実
一、主 文
被告が昭和二十四年七月二日和歌山県海草郡西山東村大字口須佐字杉尾百六十六番地所在宅地百三十一坪のうち五十七坪二合五勺及び同地上の木造瓦葺平屋建九坪二合並びに同十坪五合の二棟の建物についてなした裁決のうち宅地二合五勺(井戸敷の部分)以外の部分に関するものを取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文のような判決を求め、その請求原因として、
第一、和歌山県海草郡西山東村農地委員会は、訴外吉中亀楠の申請に基ずき、原告所有の主文記載の宅地五十七坪二合五勺及び同地上の二棟の建物について、自作農創設特別措置法(以下自作法と略記する)第十五条により買収計画を立て、昭和二十四年三月十四日その公告をした。原告は同月二十一日右買収計画に対し同委員会に異議の申立をしたが同年五月十六日却下されたので、更に、被告に対し同月二十四日訴願したところ、同年七月二日訴願物件中宅地二合五勺(井戸敷部分)のみを容認し其他の部分即ち前記宅地五十七坪及び同地上の二棟の建物については、これが買収を相当として棄却の裁決をし、その裁決書は同月二十四日原告に送達せられて原告は右処分のあつたことを知つた。
第二、然しながら、右裁決には次のような違法がある
自作法第十五条によつて買収できる宅地又は建物とは、同法第三条に定める買受農地の利用上直接に必要欠くべからざる関係にあるものに限るべきものである。然るに
(一) 買収目的物件中木造瓦葺平屋建九坪二合(以下(イ)の建物と略記する)は、買収申請人吉中亀楠が買受けた農地の利用上直接必要不可欠のものということができないから、これが買収計画が容認した裁決は不当である。
即ち、右建物は昭和九年二月原告が後述(ロ)の建物及び本件宅地と共に買受けた当時これに居住していた吉中亀楠に賃貸して現在に及んでいるが、右亀楠は豆腐製造販売を専業とし長年(イ)の建物に居住してこゝで豆腐の製造販売を営んできたところ、今次戦争末期に至つて原料の入手困難となり、そのころより副業的に農業に手を染めだしたのであつて専業農家といえない。而して本訴家屋は斯かる非専業農家が居住のために使用しているだけであつて同人の買受農地の利用上直接に必要不可欠のものということができない。
(二) 木造瓦葺平屋建十坪五合(以下(ロ)の建物と略記する)は、前記亀楠が不法に占拠しているものであつて同人を正当な買収申請人ということができない。然るに被告の裁決は斯かる正当な買収申請資格なきものゝ申請に基ずく買収計画を容認したものであるから違法である。仮りに然らずとしても、本家屋には亀楠の息子である政治夫婦が居住して居り、政治は鉄道公安員として勤務しているものであつて本家屋は亀楠の買受農地の利用につき何等の関係も存在しない。
(三) 本件宅地五十七坪は右(イ)及び(ロ)の何れも買収すべからざる建物の敷地であるからこれも亦買収すべきものでない。のみならず亀楠は右宅地について自作法第十五条に定める賃借権等の権利を有せず、単に(イ)の建物を賃借している関係上、右宅地のうち、その使用に必要な部分の敷地を利用し得るにとゞまるのであるから買収条件を欠くものといわねばならない。仮りに然らずとしても、右五十七坪は一筆の宅地の部分であるから、買収部分を特定すべきであるに拘らず、被告の裁決はこれを明示せず買収を容認した違法がある。
よつて、被告の裁決は違法であるから、これが取消を求めるため本訴請求に及んだものであると陳述し、被告の答弁に対し、(ロ)の建物につき亀楠が賃借権を有することは否認する。(ロ)の建物は昭和二十年十月頃支那より引揚予定の亀楠の娘近藤夫婦収容の為亀楠の申込に応じ一時近藤に賃貸したものであつて、近藤は昭和二十三年末頃に和歌山市え転住したから同人との賃貸借は終了したものであるに拘らず、亀楠はこれを不法に占拠しているものであると述べた(立証省略)。
被告指定訴訟代理人は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするという判決を求め、答弁として、原告主張の第一の事実は認める。第二の(一)の事実に対し、亀楠は嘗て豆腐製造販売を営んでいたが、昭和十五年頃に廃業し年に一、二度部落行事に際し頼まれて製造する程度であつて、これを本業ということはできない。現在は農地四反五畝(内自作法による買受農地二反)を耕作しこれによつて生計を立てゝいるものであるから非専業農家というは当らない。而して(イ)の建物は同人の買受農地の利用上必要なものと認めて買収する旨裁決したのであるから違法はない。第二の(二)に対し、(ロ)の建物は昭和十九年十二月亀楠の娘近藤夫婦が満洲より引揚げてくることゝなつたので賃借中の(イ)の建物のみでは狭い為亀楠自身がそのころ原告より賃料月五円で賃借したものである。近藤夫婦は昭和二十三年六月引揚げて亀楠と共に(イ)の建物に同居し約七ケ月後に和歌山市え転住したが、賃料は(イ)及び(ロ)の建物の分を含めて月九円を右借受日より亀楠が原告に支払ひ来つて居り、現在もこれを賃借しているのである。第一の(三)に対し、宅地五十七坪は亀楠が賃借しているのではないが、(イ)及び(ロ)の建物の賃借に伴い亀楠に使用する権利があるのであるから、これを買収することは不当ではないと述べた(立証省略)。
第二審判決の主文、事実および理由
一、主 文
原判決を取消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。
二、事 実
控訴人は主文第一、二項同旨の判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述は原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する(証拠省略)。
三、理 由
被控訴人が、その主張の宅地建物を所有していた処、西山東村農地委員会が訴外吉中亀楠の申請に基き、自作農創設特別措置法第一五条第一項第二号により、その買収計画を定め、昭和二四年三月一四日公告し、被控訴人は同月二一日これに対し異議を申立てたが同年五月一六日却下され、同月二四日控訴人に対し訴願した処、同年七月二日訴願物件中井戸敷部分の宅地二合五勺のみについて訴願を容認し、その余の部分の訴願については買収を相当と認めて棄却の裁決をし、その裁決書が同月二四日被控訴人に到達したことは当事者間に争がない。
そこで右裁決の当否について考えるに、成立に争のない乙第一号証、原審並当審証人吉中亀楠の証言及び原審並当審の検証の結果を綜合すれば、買収申請人吉中亀楠は前記法律による買受農地二反六畝を含めて計四反余の農地を耕作して農業に従事し、本件宅地上の本件建物を被控訴人から賃借して、妻子等とともに居住し、もしくは農具、農産物等をこれに収納して農業経営の目的に使用していることが認められ、この認定をくつがえすに足る証拠はない。
そうすると本件宅地建物は農業経営に必要なものであると云わなければならない。而して前記法条による宅地建物の買収は農業経営に必要な賃借物件であれば足り、被控訴人主張のような密接又は従属の関係を要するものではないから(最高裁判所判例集第四巻第七号三二五頁以下所載、同裁判所判決参照)、本件宅地建物の買収は適法であつて、これを認容した裁決は相当であり、被控訴人の請求は理由がない。
よつて民事訴訟法第三八六条、第九六条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。