大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和26年(オ)420号 判決

上告人 滋賀県選挙管理委員会

被上告人 松浦又治郎

一、主文

原判決を破棄する。

被上告人の請求を棄却する。

訴訟費用は当審及び原審とも被上告人の負担とする。

二、理由

上告人の上告理由は末尾に添えた書面記載のとおりである。

職権をもつて調査するに、被上告人は本訴において、上告人滋賀県選挙管理委員会が昭和二五年四月一一日にした訴願裁決の取消を求めるものであつて、右訴願裁決は滋賀県蒲生郡桐原村長の当選の効力に関する同村選挙管理委員会の異議決定及右当選の効力に関してなされたものであるが、原判決の認定によれば右村長選挙は昭和二二年四月五日施行されたのであるから、何人が正当な当選人であるにしても、地方自治法附則三条同法一四〇条公職選挙法二五九条により、右選挙による村長の任期は満了し、現在においては、右訴願裁決の取消を求める実益はなくなつているものと言わなければならない。よつて本訴被上告人の請求はこれを棄却すべきものである。

次に訴訟費用の負担について按ずるに、桐原村選挙管理委員会が訴外重田源次郎の当選無効の決定をしたのは昭和二四年一二月二五日であるが、市町村選挙管理委員会が、一たび選挙会の定めた当選人の当選を無効とすることのできるのは、選挙人又は候補者から当選の効力について異議の申立があつた場合に限るのであつて、本件のように選挙の日から二年八月余を経過した後に、突如としてさきに選挙会の定めた当選人の当選を無効とする決定をするが如きは選挙管理委員会の権限を超えたものであること明白であつて、かかる決定はたとえこれに対し争訟の提起がなくても法律上全く無効の決定と言わなければならない。然らば前記重田の当選無効を前提として選挙会が被上告人の繰上当選を定めたことももとより違法であり、上告人がその訴願裁決で右当選決定及これを是認した村選挙管理委員会の異議決定を取り消したのは正当であつて、その裁決理由に当らない点があるにしても結局正当に帰する。すなわち、被上告人の本訴請求は、本来理由のないものであるから、民訴八九条により訴訟費用はすべて被上告人に負担せしめるを相当とする。

よつて民訴四〇八条、九六条を適用し裁判官全員一致の意見により主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

昭和二六年(オ)第四二〇号

上告人 滋賀県選挙管理委員会

被上告人 松浦又治郎

上告代理人池田収二同小森広同北川力夫の上告理由

第一点

本件に於ける所謂請負契約については桐原村は村会の決議を経ていないのである。請負をなす以上利益を挙ぐる場合もあり、又損失を招く場合もあつて村財政に深い影響を及ぼし、新たな義務の負担であるから村が請負契約を有効に締結するには必ずや村会の決議を要し、之なくして為した契約は有効条件を欠如した無効の契約と言わなければならぬ。原判決は請負は私法上の契約だから村会の決議を要すべき事項につき之なくして契約を締結するも、その効果は村長個人の責任に止まり、善意の第三者に対しては有効だと論断している。茲に善意の第三者とは何人を指したものか判決は之を明かにしていないが、本件契約の当事者は桐原村と滋賀県、桐原村と耕地整理組合連合会及び桐原村と重田源治郎との間に存在しており、村長は村を代表して契約しているのであるから、村長は第三者でないことは極めて明白であるばかりでなく村は契約の当事者である。然るに強て推察すれば判決は村と村長と相手方とを三面関係に見て村長と相手方との契約に欠陥があつても村はこの欠陥を知らないから契約は村に対して有効だと解するようである。原判失は西義光の証言として当時村長等に於ては、右契約を結ぶにつき村会の議決を要すべきや否やに考が及ばなかつたとの供述を援用している点から見ても、恐らく村を以て善意の第三者と見たのであろう。同証人は嘗つて桐原村長の職にも在つたもので村会の決議を要すべき事項に心付かない筈がない。決議を要すべき事項につき考が及ばずしてなした行為が凡て有効となるものであれば殆んど村会存置の必要を見ないではないか。現に明治二十六年三月滋賀県甲第十号市町村土木工事請負に関する件通牒にも市町村において従来の慣行により府県の土木工事の請負を為すには市町村会の議決を経べきことを注意している。原判決は契約に関する法理を度外視し、独断恣意の見解を以て無効なる契約を有効と判定したる結果、延いて下請負契約が成立したりと誤認し事案の判断をした不法がある。請負契約にして無効なる限りその下請負契約は当然無効だから、重田源治郎は当選当時村と請負関係に在つたものと言うを得ない。

第二点

桐原村選挙会が昭和二十五年二月十八日原告の繰上当選を決定したのは当時施行の地方自治法第五十六条第二項の規定に基いてなしたものであろう。然らば桐原村選挙管理委員会が昭和二十四年十二月二十五日重田源治郎の村長当選無効確認を決定し、之に対し同人は異議の申立をしなかつたから同法第五十七条により村長の当選を失つたものと認めた結果と見るの外はない。しかし、右五十七条は当選人が選挙の期日後において被選挙権を有しなくなつたときは当選を失うとあつて原判決は村と請負関係にあるものは村長就任と同時に村長の被選挙権を有しなくなつたと認定しておるが、之は甚だ不当な見解である。選挙当時施行の町村制には村と請負関係にある者は村長たる事を得ざる旨の規定あるも被選挙権を失つたとは規定していない。村長の被選挙権の有無について、同法第六十一条の十五において準用する第十五条第二項及び第三項の外第十二条但書に該当するものを除き被選挙権を有するもので村と請負関係にある者を以て被選挙権を有しないとした規定はない。従つて村長当選無効確認を受けた重田源治郎は再び村長候補者となることは毫も違法ではないのである。原判決が村と請負関係に在る者を以て被選挙権なしと認定したのは法を無視した独断の見解であつて不当と言わなければならぬ。従つて桐原村選挙会が原告の繰上当選を決定したのは繰上当選をなし得ない場合であるのに之をなしたもので、此の点において右決定は無効であるに拘らず原判決は繰上当選のための選挙会はその選挙を決定するための選挙会の結果に外ならないから選挙当時の選挙会が繰上当選を決定すべきものだとしている上告人の見解では選挙会は当選に関する事項につき招集する都度成立し、その事項を決定することによつて選挙会はその都度消滅するものと信ずる。原判決の言うが如く繰上当選の選挙会はその選挙を決定する為めの選挙会の継続ではない。この点において原審は法の解釈を誤つて事案を判断した違法がある。飜つて本件争議の実情を通観するに重田源治郎が村と請負関係に在つたと見るべき事実は同人の村長当選より遥かに以前であつて昭和二十二年四月五日の選挙に当選した当時既に住民一般公知の事実にあつたに相違なく、しかも当選承諾と共に選挙会も当選の有効なることを認め村長に就任し、当選に関する選挙会は消滅している。然るに二年数ケ月を経過した後に至り遽に選挙管理委員会はその当選の無効確認を決定し、当時その決定が確定し、その後約二ケ月を経過して選挙会が原告の繰上当選を決定した経過からするも原告等の一派の陰謀策動は容易に察知さるるに拘らず原審は毫もこれ等の点を洞察することなく、単に表面の経過のみに着目し、たやすく原告有利の判決を言渡したのは、事実観察に対する経験則に違反している。尚繰上当選の決定は法の明文上その事由の発生した後直ちに選挙会を開くべきものであるのに、本件の如くその事由は当選当時既に存在していて約三年余を経過し、又之を当選無効確認の時と見るも約二ケ月を経過した後に選挙会を開会しているから時期の点においても既に違法である。加之原判決は繰上当選のための選挙会は選挙当時の選挙会の継続であつてその選挙会が繰上当選を決定すべきは当然だと判定している。上告人はその意を解するに苦しむのであるが前述の通り選挙会はその事項を決定すると共に消滅することはその都度選挙長の招集に依ることによつても明かな事実で其の後になさる繰上当選の選挙会は最初の当選決定の選挙会の継続ではない。之を本件選挙会の実際に徴するに当選決定の選挙会の構成員は選挙長和田源蔵、選挙立会人小林貞次、大橋寅蔵、大橋伊右ヱ門なるに繰上当選の選挙会においては選挙長和田源蔵、選挙立会人大橋伊右ヱ門、大橋寅蔵、大黒繁松であつて、立会人小林貞次失格の事実の見るべきものがないのに後の選挙会に大黒繁松を加えており、事実において前後の両選挙会に於て構成員を異にして居り、後の選挙会を以て前の選挙会の継続とは認め難く、而も後の繰上当選選挙会の適性についても疑がある。要するに原判決は選挙会に対する法理の解釈を誤り不徹底なる判断に陥り不法の判決というの外はない。上告人は御庁の明快なる判断を待つもつである。

第三点

昭和二十五年二月十八日桐原村長選挙会がなした被上告人の繰上当選決定を仮に正当だとしても同年十二月二十三日桐原村選挙管理委員会は之を取消している原審は其取消の理由につき被告に釈明を求めたが当時被告に於て其の理由を詳かにしていなかつたから不明なる旨答弁しておいたところ原因の不明は即ち理由の不存在なりと速断し、右取消の効力を否定したが原因の不明と其不存在とは別個の観念であり選挙管理委員会ともあるべきものが理由なく決定するが如きは常識を以つても考えられぬところであるから取消すべき理由あつて取消したが其理由を承知して居らぬと解釈すべきを当然とすべきに直ちに理由なき取消だと断定し其取消の効力を否定したのは条理に反して事実を確定した違法がある。而して一旦取消されたる以上繰上当選の効力を失うたから原告は村長たる身分を喪失したことは疑を容れぬ取消決定を取消したとて更に原告に対し身分附与の手続なき限り一旦喪失した身分は蘇生回復する謂われがあり得ない。

第四点

重田源治郎当選当時の町村制第六十五条は町村長は其町村に対し請負をなす者たることを得ざる旨規定すると共に其第七十条第一項には町村長失職の場合を掲げているが、町村に対し請負をなす者を含めていない。従つて町村長は町村に対し請負関係あつたとしても之が為め失職することなく唯町村長たることを得ざる為め其請負関係を絶てば依然として町村長たる資格を有するわけである。而して重田源治郎は村長就任以来全く右工事に関係せず検証に依つて明かな通り工事は全く荒廃に帰している。蓋し法が町村長の請負者たることを禁じた所以は請負によつて受くる給与が多額に達し、遂に町村長の職務遂行に支障を来たすべき虞あるが為めであつて本件契約の如き僅か金二万円に過ぎない点からしても村長の当選を無効とすべき理由はない。原判決は形式的にもせよ契約が存続する以上村長の被選挙権を失つたものと断定して居るが、村長の被選挙権に付ては町村制第六十一条の十五に於て準用する第十五条に明文あつて重田源治郎は其被選挙権を失つたものと見るべき法律上の根拠がない原判決は法文の解釈上明白なる法理に眼を塞ぎ独断創造の法理を以て事案を判断している。

第五点

上告人桐原村が本件水路並に道路工事を各事業主より請負いたる行為の無効を主張するものであるが、原判決の論述するところに依れば凡そ村の如き行政上の公法人は基本来の目的から云つて住民の共同の利益の為めには各種の事業を営み得るから右の請負契約有効だと云うのである。勿論被告と雖も村が地方公共の利益とあれば広く各種の事業を自ら経営し得ることに異論はないが、それには自ら多少の限度あつて原則として普通私人の為す営利事業は之を経営することが出来ないものと信ずる。例えば或る営利会社の工場誘致のため其便宜を計り或る種の計画施設をなすが如きは公共団体の利益となろうから之を為し得るも工場其物の建築を請負う如きは土建業者個人の営利事業を営むものであつて之は許さるべきものではない。本件に於て道路改良工事は滋賀県の事業であり水路延長工事は安土村外六ケ町村耕地整理組合連合会の事業であつて共に桐原村の事業ではない。而かも請負行為は一の労務作業であつて事業そのものでないから原判決の法理解釈に依つては直ちに係争契約の有効なる所以を判ずることが出来ない原判決は村に対する公法上の法理を誤つて適用した欠点がある。

第六点

原判決は甲第四号証乃至第七号証同第十、十一号証、証人大橋伊左衛門、西義光、大黒与三松、中島英一、高木舛司の各証言を綜合して桐原村と重田源治郎間に同人が村長当選当時請負関係の存在したことを認定している。しかし請負なる用語は世上普通には、事、土木建築に関する限り賃金制による常傭人夫による直営工事にも又仕事の完成に対し報酬を与うる所謂請負工事にも通じて混用せらるること恰も民間離婚と離縁とを混用するに似たるは顕著なる事実なるところ原審は前記証拠に使用せられたる請負なる文句を其何れに属するやを探究することなく漫然其文句其ものに拘泥し、直ちに請負関係の存在を肯定している、換言すれば不明確なる用語を其儘捕えて明確なる事実認定の資料としている是は明らかに採証の法則に違反するものであつて、延いて重大なる事実の誤認に陥り理由に不備を来たしたもので審理を尽さざる不法がある。苟も村なる公共団体が請負契約を結ぶに当つては一定の方式による法律的文例による書面をもつてするのが普通行わるるところであるのに甲第五号証の契約書によれば単に耕地整理組合桐原幹線水路一、二七九石工及び胴木入れ衷込手伝人夫代此等を金二万円に見積り代金は新紙幣を以て支払うこととする至極簡単な覚書用のもので仕様書の添付もなく之を原審の採用した全証拠に証人重田源治郎の証言を参酌すれば同人は村長当選に先立ち当時病中にて工事に関係することを極力固辞していたのに所謂工事委員等の強要に巳むなく、右契約書の如く人夫の供給を承諾し此等人夫に於て工事に取り掛つたが村より供給すべき衷込票石等の仕送なく其為め折角の工事も崩壊するようになり事実上進捗できないので昭和二十一年十一月限り供給を打切り、爾来工事荒廃の儘今日に至つているのが事実である。被告が此事実に立脚し重田源治郎の関係したる部分は専門技術を要する人夫の供給斡旋に止まるとなし請負関係を否認したのは本件全証拠を綜合して正に正当な見解である。

第七点

原審は重田源治郎の右工事に関係したる部分を捕えて請負契約の存在なりと誤断し同人が村長当選当時該契約の解除されたる事実がないから依然請負関係に在つたものだと認定しているが、本工事は村民共同の利益のための工事だとは原審の認めるところであるから重田源治郎が村長当選以前より仕事を放任して省みない以上村は村民共同の利益のため進んで速かに解除し更に第三者をして工事を完成せしめるのが至当である。然るに毫も其手続を取りたる跡なく村として其懈怠甚しきに拘らず原審は尚有名無実な契約の存在を盾に請負関係の現存を云々するは予断を以て事実を観察し故らに被上告人に有利な判断をなしたものであつて憲法の保障する公正な判決と云うを得ない。果して斯くの如んば村が契約関係を解除せざる以上重田源治郎は永久に村長に立候補し村長となるべき可能性を剥奪せらるる結果となるから本上告に於て上告各点に亘り適法なる判断を賜わるべき利益あるものと云わなければならぬ。

以上上告理由により原判決を破棄し事案を原裁判所に差戻されんことを求める。

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