最高裁判所第二小法廷 昭和26年(オ)664号 判決 1953年7月03日
主文
原判決を破棄する。
本件を広島高等裁判所に差戻す。
理由
上告理由第二点(2)(3)について。
原判決は、上告人は昭和二〇年一一月本件田地の裏作として麦を播いたところ、翌二一年春籾種を伏せる頃になつて、地主山田益次郎の妻サカヨが訪ねて来て、上告人に対し本件田地を返して貰いたいと申出たので、上告人は替地を要求したところ、同人は「帰つて相談しておこう、或は又元のように此の田をあんたに代つて貰うことになるかも知らぬがとにかく今年は返してくれ」と懇請したので上告人はこれを承諾し、同年五月頃麦を刈入れた後、替地の点を未解決の侭本件田地を山田益次郎に返した事実を認定し、右認定事実に徴すれば、右合意解約は自作農創設特別措置法六条の二、第二項一号所定にかかる「適法かつ正当」に行われたものと認めるべきであると判示したことは原判文上明らかである。
しかしながら、右認定の事情からは右の解約が結局両当事者の任意に出でた合意によるものとして同号にいわゆる「適法」なものとは認め得るとしても右の事情だけでは右合意解約を以て同号にいわゆる「正当」とするには不十分である。右解約が同号にいわゆる「正当」なりや否やを判断するには右解約は信義に反することはないか、解約の結果耕作者の地位の安定を脅かすのおそれはないか、その他自作農創設特別措置法第一条に掲げるごとき同法制定の趣旨に照し正当とすべき事情ありや否やを調査判断すべきものであるから、原判決の如上のごとき判断は未だ以てこの点に関する審理を尽さず、結局前記自創法六条の二第二項一号の解釈を誤つたことに帰着するのであつて(昭和二六年(オ)第四九四号同二八年六月一九日言渡第二小法廷判決、昭和二六年(オ)第四〇二号同二八年四月三日第二小法廷判決参照)この点において論旨は理由あり、原判決は破棄を免れない。
よつて民訴四〇七条により主文のとおり判決する。
右は全裁判官一致の意見である。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)