最高裁判所第二小法廷 昭和26年(オ)814号 判決 1953年11月20日
和歌山市湊一、七五七番地
上告人
河島英市
右訴訟代理人弁護士
竹原五郎三
右訴訟復代理人弁護士
鵜沼武輝
北海道上川郡神居村字本町四四番地
被上告人
神居村農業協同組合
右代表者理事
清水幸太郎
右当事者間の損害賠償請求事件について、札幌高等裁判所が昭和二六年一〇月一九日言渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。
主文
原判決を破棄する。
本件を札幌高等裁判所へ差戻す。
理由
上告理由について。
原判決は、本件競売の目的たる林檎八十箱は控訴組合(被上告人)の所有にかかり、同組合から訴外合名会社河内商店に寄託されてあつたもので本件競落にあたり被控訴人(上告人)は同訴外会社から現実の引渡をうけず、たゞ占有改定が行われたにとゞまるとの事実を認定し、これにもとずいて、上告人の民法一九二条による右林檎に対する所有権取得の主張を排斥したのである。しかしながら、右林檎についてはその以前執行吏の差押によつて、一旦執行吏の占有に帰属したことは本件において争のないところであり、右競落の現場において、この執行吏の占有関係がいかなる経過によつて、上告人の占有に帰属したか原判決は何ら具体的に判示するところはない。(原判決の証拠として挙示する第一審証人執行吏飯田貞治の証言によれば、「右物件の引渡方法はそれらが全部河内商店の倉庫内に保管されておりましたので、そのままで口頭を以て競落人の河島へ現場で引渡したのであります」とある)原判決は漫然「占有の改定」による引渡を判示するけれども、いかなる事実関係にもとずいて、何人と何人との間に「占有の改定」が行われたかを具体的に説示するところはなく、その挙示する証拠の内容を検討しても、必ずしも、右の事実関係を明らかにすることはできない。
とすれば原判決は、この点において理由不備の違法あり、破棄を免れないものと云はざるを得ない。
よつて、民訴四〇七条に則り全裁判官一致の意見を以て主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)
昭和二六年(オ)第八一四号
上告人 河島英市
被上告人 神居村農業協同組合
上告代理人弁護士竹原五郎三の上告理由
一、原審は上告人に現実の引渡がないので所有權を取得することが出来ないと判定せられたるも、事実誤認の甚だしさものである。
上告人は執行吏立会の下に正式の競賣手續に於て競落し、現実に其の引渡を受け、訴外河内武雄に一時預けおきたるものを被上告人は右事実を知悉せるに不拘、何等法律上の手段を執らず実力行使により搬出処分したもので、第一審判決で示されたように法律秩序を破壊するものであつて到底法の保護に値せざるものである。執行吏の公賣に於て競落したものが其の所有權を認められず、被上告人の如き不法行為をしたものが許されるとせば、法治国の安全は到底望まれない。原判決は誤れる見解の下になされたもので実験則に反し、公平の觀念からも容認さるべきものではない。
二、要するに上告人は完全に所有權を取得し被上告人に對抗し得るものであるのに、これと反對の結論を出されたが、それは誤れるものであるので原判決は取消さるべきものと思料する。
以上