最高裁判所第二小法廷 昭和26年(オ)906号 判決 1953年12月18日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告理由第一点について。
利息制限法違反の利息の定めは裁判上無効であつて、訴訟によりこれが請求をなしえないことは勿論であるけれども、これがためかかる利息の支払を定めた金銭消費貸借契約自体も民法九〇条により無効となるということはできない。金銭消費貸借においては借主は、現金またはこれと同視すべき経済上の利益を受取つてこれを現実に利用するのであり、しかも利息制限法違反の利息は裁判上無効としてこれが訴求を受ける虞れがないのであるから、右の如き消費貸借契約は単に利息が高率であるという一事により特にこれを無効とする必要あるを見ないのである。この点においては利息制限法の適用を見ない金銭以外の消費貸借上の利息または商事に関する金銭消費貸借上の損害金の場合とその趣きを異にするものといわなければならない。もとより金銭消費貸借といえども、或る特別の事情の存する場合には時に民法九〇条により無効となる場合もあるかも知れないけれども、かかる特別の事情は借主においてこれを主張立証することを要するは当然である。ところで本件貸借においては、上告人は自己の事業資金に充てるため借金したのであつて、他に何等特別の事情はないというのであるから、その消費貸借をもつて無効といえないことは勿論であつて、論旨援用の判例は本件に適切なものではなく、所論はこれを採ることはできない。
同第二点について。
利息制限法違反の利息を元本に組入れた場合にも、その組入自体は法律上当然に無効ではなく、単に裁判上無効たるにすぎないものと解すべきであり、従つてその組入額に対する利息の約定も、それ自体法律上当然に無効となるのではなく、単に利息制限法違反の利息に関する定めとして裁判上無効とされるにすぎないと認むべきである。蓋しいわゆる重利も畢竟元本に由来する利息に外ならず、その法律上の処遇はすべてこれを利息制限法の理想に照してこれを扱うを妥当とするからである。そして利息制限法違反の利息の定めは右の如く単に裁判上無効たるに止まり、既に支払つた制限超過の利息はこれが返還を求め得ないと解すべきであるから、右制限超過の利息を元本に組入れ、これに対する利息を支払つた場合にも、その利息については裁判上これが返還を求め得ないものといわなければならない。所論はこれと反対の見解に立ち原判決を非難するものであつて採用することはできない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)