大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和27年(あ)1342号 判決 1953年11月13日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人島本貞一の上告趣意第一点について。

第一審判決の確定した判示第一の事実は被告人は京都府熊野郡川上村須田郵便局長として同局事務員を監督し、為替、貯金、簡易保険の募集、金銭の出納保管の業務に従事していたものであるが、架空人の名義を用いて偽造の保険申込書を作成行使して、同局に割当てられた簡易保険募集額の割当責務を達成したように装わんことを企て、別表第一記載の各年月日頃、いずれも右郵便局において、インクを用い行使の目的を以って各保険申込書用紙に同表記載の各契約者の署名を冒用し、同表記載の各保険金額、被保険者、保険金受取人、払込場所等保険契約者において記入すべき必要事項を擅に記入し、各保険契約者被保険者の名下に同局にあった三文判又は借受判を冒用し、もっていずれも架空人である同表記載の今立正三外四名名義の右保険申込書合計九通を夫々作成偽造した上、同年四月上旬頃情を知らない事務員安達栄子に命じて右各申込書を真正に成立した文書として京都地方簡易保険局に一括して送付し、其の頃同局に到達受理させて、これを行使したというのである。而して第一審判決の挙示する証拠によれば右今立正三外四名名義の保険申込書は被告人が右郵便局備付の印刷せられた保険申込書用紙を使用したものであり、被告人はこれを他の真正な実在の人の保険申込書と同様にこれを取扱う目的で作成したものであることが窺われ、且つ冒用した名義は架空人であるにしても、いずれも巷間にありふれたような名義のものであって被告人において右名義人が実在するものの如く作為したものと認めるのが相当であり、又それは当局のみならず一般人をして実在者の真正に作成した文書と誤信せしめるおそれが十分にあるものということができるのである。そして被告人が右の如く架空人名義を用いて保険申込書を作成した場合と実在人名義を冒用して保険申込書を偽造した場合とを比較して考えてみると当局のみならず一般人をして真正に作成された文書と誤信せしめる危険のある点において何等区別はないのであるから、本件のような場合には架空人名義を用いたとしても被告人の行為は私文書偽造罪を構成するものと解すべきである。論旨は最高裁判所の判例違反を主張するが引用の判例は本件には適切でない。又当裁判所は死亡者名義の郵便貯金払戻証書の偽造が私文書偽造罪を構成することを判例としておるのであって(昭和二五年(れ)第一三三五号昭和二六年五月一一日第二小法廷判決、判例集五巻六号一一〇二頁以下参照)原判決の判断はこの判例に準拠するものであることは原判決が右判例を引用することによって明らかである。従って所論大審院の判例違反を主張する論旨はその理由がない。

同第二点について。

論旨は結局事実誤認の主張に帰するのであって適法の上告理由に当らない。

なお記録を精査するも本件につき刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって刑訴四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例