大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和27年(あ)37号 判決 1953年6月19日

本籍並びに住居

宮城県志田郡三本木町三本木字北町四一番地

農業

鈴木正太郎

大正一四年一月二日生

本籍並びに住居

同県同郡同町三本木字北町六〇番地

農業

早坂貞美

明治四四年一月七日生

本籍並びに住居

同県同郡同町三本木字寺橋一六八番地

農業

早坂庄蔵

明治三八年一二月一四日生

右の者等に対する公務執行妨害各被告事件について、昭和二六年一〇月一八日仙台高等裁判所の言渡した判決に対し、各被告人から上告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人菊地養之輔の上告趣意について。

憲法第三五条の趣旨とするところは、当裁判所昭和二四年(れ)第三〇一一号同二五年七月一九日大法廷判決(判例集四巻八号一四八一頁)に示されているとおりである。所論は、同条違反をいうけれども、その実質は、第一、二審判決が被告人等の所為につき公務執行妨害罪の成立を認めたことを非難するに帰するのであつて、上告適法の理由とならない。

そして、本件濁酒密造犯則事件の調査に当り、税務署員において適法な捜索差押許可状を携帯所持していたことは第一審判決の認定するところであり、税務署員にかかる調査の一般的な権限があることはいうまでもないから、仮りに、税務署員において該許可状をその処分を受ける者に対し呈示することが法の要請するところであるとしても、本件の如く、相手方においてこれが呈示を要求した事実の認められないのは勿論、これを呈示することが事実上不可能であつたと認められる場合においては、(記録によれば、本件の場合、大坂収税官吏は、証拠物件を投棄されるおそれがあつて、緊急を要した為め、谷地森収税官吏より一足先に高橋政治方に入つたので、許可状を示すことができず、また、谷地森収税官吏は右高橋方玄関に赴いた際、折柄出て来た跡部鉄雄外二名に対して許可状を示し、更らに処分を受ける高橋を尋ね探したが、混乱の為め見当らなかつたので、同人に対してはこれを示すことができなかつたものであることが窺われる。)たとい、税務署員が許可状を呈示しなかつたとしても、唯だその一事により、その調査が公務の執行たることを妨げられるものではなく、暴行脅迫によつてこれを妨害した被告人等の所為が公務執行妨害罪を構成することは多言を要しない。論旨は採用することができない。

なお、記録を調べても、本件につき、刑訴四一一条を適用すべき事由ありとは認められない。

よつて、同四〇八条に則り、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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