最高裁判所第二小法廷 昭和27年(あ)4976号 判決 1954年8月20日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人中野並助の上告趣意第一点について。
所論は法令違反の主張であって刑訴四〇五条所定の上告理由に当らない。なお刑法一九七条ノ二の罪が成立するためには公務員が其の職務に関する事項につき依頼を受けこれを承諾したことを必要とし第三者に供与した利益がその公務員の職務行為に対する代償たる性質を有することを要するものと解するを相当とし、右第三者のうちには地方公共団体その他の法人を含むことも当然でありこれを除外する理由はない。本件において確定された事実は第一審判決判示のとおりであってその要旨は被告人は吉井町警察の警察署長であり犯罪の検挙、捜査及び検挙した被疑事件を検察官に送致する職務等を有するものであるが、判示被疑事件につき吉井町又は吉井町外二ケ村隔離病舎組合に寄附金をするから寛大に扱われたいとの依頼を受けてこれを承諾し右町及び組合に寄附金名義で金員を供与させ、よって右被疑事件を検察庁に送致しなかったという趣旨であるから、贈賄者の供与した利益は賄賂性があり刑法一九七条ノ三、一項及び同法一九七条ノ二の罪が成立するものというべく、従って原判決には所論のような違法は存しない。
同第二点について。
所論は事実誤認の主張であるから刑訴四〇五条所定の上告理由に当らない。
同第三点について。
所論は事実誤認の主張であるから刑訴四〇五条所定の上告理由に当らない。なお前記説明の如く刑法一九七条ノ二に規定する第三者に法人を含むと解する以上同法一九七条ノ四の規定による没収又は追徴は法人に対してもこれを為し得るものというべく、法人が情を知っているというのは法人の代表者が情を知っている場合をいうものと解すべきである。本件において供与された賄賂はいずれも判示公共団体の代表者がその情を知って収受したものであることは原判決の確定した事実であるから、原判決が右公共団体に価額の追徴を命じたのは正当である。
なお記録を調べても本件につき刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
よって刑訴四一四条、三九六条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)