最高裁判所第二小法廷 昭和27年(あ)6430号 判決 1954年10月08日
主文
本件各上告を棄却する。
理由
弁護人野呂清一の上告趣意(後記)は、単なる法令違反の主張であって刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また記録を精査しても同四一一条を適用すべきものとは認められない。
よって同四一四条三九六条により主文のとおり判決する。
この判決は裁判官霜山精一、同谷村唯一郎を除く他の裁判官全員一致の意見である。
裁判官霜山精一、同谷村唯一郎の意見は次の通りである。
原審の維持した第一審判決の確定した事実によれば、被告人等はその経営する競輪ブック宣伝部において清田格夫外約百六十一名より京都市主催宝ケ池競輪の連勝式勝者投票券合計約四百七十枚の購入依頼を受け、依頼券一枚につき百十円替の金員を徴収しこれと引換に購入依頼者に対し勝者投票の適中者となった場合、主催者が的中勝者に払戻す金額と同一金額を払戻す預り証と題する証票約百九十九枚を交付し以て勝者投票券発売に類似の行為をなしたというのである、そしてこの判示には預り証を交付した以後の行為については言及するところがないけれども挙示の証拠によれば被告人等は依頼者の指定する勝者投票券を購入し依頼者が勝者投票の適中者となった場合、主催者より配当金を受領して依頼者に支払う仕組であることが窺える(時により配当金受領前に被告人等が配当金を立替えて依頼者に支払ったこともあったようであるが、これは勝者投票が判明したのち被告人等が配当金を受取るまでの短時間の間の好意的取扱であると見られる)。して見れば、被告人等のこれら一連の行為は単に客の依頼を受け客に代ってその指定する投票券を購入し、勝者投票券が的中したときは主催者より配当金を受領して依頼者に支払うもので、どこまでも客の依嘱を前提とする取次行為に過ぎないのであって、これがため競輪施行者の業務を侵しまたは自転車競技の公正や秩序を害するものではない。従って旧自転車競技法一四条一号に該当するものではない。このことは昭和二七年六月三〇日法律二二〇号による自転車競技法の改正に当り新たに「業として車券の購入の委託を受け又は財産上の利益を図る目的をもって不特定多数の者から車券の購入を受けた者」を処罰する規定が設けられた(一九条二号)ことに徴しても旧法の立法当時にはこのような取次行為が行われこれを取締らなければならないことを予想しておらなかった証左である。従って本件被告人等の行為は旧法一四条一号の対象にならないのである。然らば旧法を適用する本件においては犯罪は成立しないのであるから当然無罪の判決を為すべきであるに拘はらずこれと反対の見解に立ち被告人等の行為を以て自転車競技法違反に問い各罰金一万円に処した一審判決を認容した原審の判断は法令の適用を誤った違法があり著しく正義に反するものであるから須らく刑訴四一一条を適用して被告人等に対し無罪の判決を為すべきである。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)