最高裁判所第二小法廷 昭和27年(れ)103号 判決 1952年9月19日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人近藤亮太同早稲田逸郎の上告趣意第一点について。
刑法六五条にいわゆる身分は、男女の性別、内外国人の別、親族の関係、公務員たるの資格のような関係のみに限らず、総て一定の犯罪行為に関する犯人の人的関係である特殊の地位又は状態を指称するものであって、刑法二五二条においては、横領罪の目的物に対する犯人の関係が占有という特殊の状態にあること、即ち犯人が物の占有者である特殊の地位にあることが犯罪の条件をなすものであって、刑法六五条にいわゆる身分に該るものと云わなければならない。(明治四四年(れ)第二二九号、明治四四年三月一六日大審院第二刑事部判決参照)所論当裁判所第一小法廷判決は本件に適切でない。従って所論は、これを採用することはできない。
同第二点について。
所論、原判示第三(イ)(ロ)事実中(ロ)は、原審相被告人伊藤文男の単独横領の事実であって、被告人の関知せざるところであることは原判文上明瞭であって、右(イ)(ロ)は通じて一個の横領罪の成立を認むべきで、これを併合罪とすべきでないとの論旨は、何ら原判決の認定した被告人の罪責に消長するところのない議論であるから、被告人に対する上告理由として採用することはできない。
同第三点について。
使途を定めて寄託された金銭について、受託者が擅に委託の本旨に違った処分をすれば横領罪の成立することは判例の認めるところ(昭和二五年(れ)第一六六一号昭和二六年五月二五日第二小法廷判決)であって、原判決の確定するところによれば、被告人等が、使途を定めて寄託された金員について、その委託の趣旨に反してこれを料理代の支払に充てたことは明らかであるから、原判決が所論六〇〇円の全額について、横領罪の成立を認めたことを以て、所論のような違法ありとすることはできない。論旨は理由がない。
同第四点について。
所論は、すべて原判決が証拠によって確定した事実に添わない主張であって、畢竟原判決の事実誤認を主張するに帰着するのであるから、上告適法の理由とならない。
同第五点について。
所論は、量刑不当の主張であって、上告適法の理由とならない。
よって、刑訴施行法二条旧刑訴四四六条により、主文のとおり判決する。
右は全裁判官一致の意見である。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)