最高裁判所第二小法廷 昭和27年(オ)106号 判決 1954年12月17日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人宮沢純雄の上告理由について。
本件家屋は給水設備および係争の電話加入権を含めて被上告人が多賀栄太郎から買受けてその権利を取得したものであること、上告人は右栄太郎の家督相続人であつて、栄太郎の死亡により同人の被上告人に対する本件家屋の所有権移転登記、電話加入権、給水設備の登録名義書替の義務を承継したものであることは、原判決の確定するところである。しかして、右家屋については、現に被上告人は前示栄太郎との売買に因り所有権を取得した旨の登記がなされ、右電話加入権、給水設備についても、それぞれ被上告人に名義書替の登録がなされていることは、また原判決の確定するところである。原判決はかくのごとき場合この登記登録は、事実上の権利関係に合致するものであり、上告人はもともと、前記のように被上告人に対して事実上の権利関係に合致するよう登記登録に協力する義務を負うものであるから、かりに右登記登録が栄太郎の死後、栄太郎の代理人或は栄太郎本人の名義でなされた事実がありとしても、上告人は被上告人に対して、右登記登録の末消を請求することはできないと判断したのであつて、右登記登録が上告人主張のように被上告人の偽造にかかる申請書に基づいてなされたものであるとの事実は原判決の確定しないところであるから右原判決の判断は正当であると云わなければならない。
次に被上告人は原審において本件家屋、電話加入権その他栄太郎の財産一切を買受けた旨主張したことは、記録上明らかであるから、原判決のした前記売買事実の認定を以て、所論のように、被上告人の主張せざる事実を認定したものとすることはできない。その余の論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。
よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)