最高裁判所第二小法廷 昭和27年(オ)1120号 判決 1954年10月15日
金沢市長良町一二番地 田辺満一方
上告人
大森護一
高岡市中川町一一〇〇番地
被上告人
北川晴〓
右当事者間の土地建物所有権移転登記請求事件について、名古屋高等裁判所金沢支部が昭和二七年一〇月九日言渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告理由第六点について。
しかし、原審提出の準備書面に記載した重要な争点につき判断の遺脱があるというだけで、上告理由書にその争点を明かにしない判断遺脱の主張は許されない。
同第十点について。
しかし、原判示の趣旨は、上告人の転売の結果本件不動産の所有権を取得した北川佐和江において、すでに所有権取得登記を受けた以上、上告人は、もはや、被上告人との売買による所有権移転登記の請求をすることは許されないというのであつて、所論の違法はない。
その余の論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)
昭和二七年(オ)第一一二〇号
上告人 大森護一
被上告人 北川晴〓
上告代理人豊島武夫の上告理由
第一点 原判決は事実中証拠の部に於て『証拠として控訴代理人は丙第一乃至第十一号証を提出し原審証人由雄安吉(第一、二回)北川とし子(第一、二回)北川勘太郎、高坂市次郎(第一、二回)田尻庄作(第一乃至第三回)筒井次郎松、牧谷寿美子、北川ひな、大森護一(原審昭和二三年(ワ)第二五号事件)の各証言及原審大森護一本人訊問の結果を援用し、当審に於て証人西海菊松、高坂市次郎の訊問を求め、被控訴代理人は丁第一乃至四号証第五号証の一乃至七第六号証第七号証の一乃至三を提出し原審証人高坂市次郎、筒井次郎松、牧谷寿美子、北川ひな、田尻庄作(第一乃至第三回)の各証言原告大森護一本人訊問の結果の援用し当審に於て証人藤田藤七及北川とし子の訊問を求め両号各証の成立を認めた』と挙示したり。
然れども右は採証の法則違背、理由不備、釈明権行使を怠りたる違法あり、即ち(上告人控訴人)右挙示中の証人北川勘太郎の証言を援用したる事実なし(原審各口頭弁論調書参照、殊に原審第三回口頭弁論調書、三七六丁、三七七丁参照)
第二点 原判は事実中証拠の部に於て『証拠として云々』と前項記載の如く挙示したり。
然れども右は採証の法則違背、審理不尽、理由不備、釈明権不行使の違法あり、即ち上告人(控訴人以下単に上告人と略称す)は丙第五号証の一乃至三を提出したるにも拘はらず(原審第三回口頭弁論調書昭和二十六年八月九日の分参照)恰かも丙第五号証のみを提出したるが如く挙示したり。
第三点 原判決は事実中『証拠として云々』と第一点所載の如く挙示したり。
然れども釈明権不行使の違法あり、蓋し被上告人提出の丁号各証を上告人に於て否認未済の儘弁論を終結したり。
第四点 原判決は事実中『証拠として云々』とて第一点所記の如く挙示したり。
然れども右は釈明権不行使、審理不尽、理由不備、採証法則違背の違法あり。
即ち被上告人援用の証人高坂市次郎に付ては第一、二回あるにも拘はらず、単に高坂市次郎と挙示あるのみにして第一、二回の分何れを援用するや不明なればなり。
第五点 原判決は事実証拠の部に於て『証拠として云々』とて第一点摘示の如く挙示したり。
然れども右は採証の法則違背釈明権不行使の違法あり。
即ち当事者方の援用に係るものは単に田尻庄作第一回の証言を援用したるに過ぎずして同証人の第一回乃至第三回の証言を援用したることなし、即ち昭和二十五年(ワ)第二五号(別件)記録中の証人牧谷寿美子、北川ひな、田尻庄作の各証言と原審口頭弁論調書に記載あるに依り之を観るも明かなり。(記録三八七丁裏参照、原審本件の記録)
第六点 原判決は事実の部に於て『控訴代理人はその請求原因として控訴人は昭和二十六年六月十六日別紙目録記載の不動産を被控訴人から代金一万五百円登記期日を同年八月三十一日とし即日手附金千円を交付して買受けたところ、右登記期日は被控訴人の都合で延期せられた。控訴人は昭和二十三年一月三十日被控訴人到達の書面で同年二月十日午前九時金沢市尻垂坂通代書人西海菊松方迄出頭の上登記手続を為されたいと催告した上、右期日に代金を準備して右場所に出頭したが、被控訴人は出頭せずこれに応じないから被控訴人に対し先に交付した手附金千円を控除した残代金九千五百円を引換に右不動産の所有権移転登記手続を求める為本訴に及ぶと陳述し被控訴人の答弁に対し控訴人が昭和二十年九月十三日右不動産を訴外田尻庄作に転売した事実は争はないが、控訴人は昭和二十三年一月二十六日手附金倍額の金二千円を供託の上、右転売契約を解除したから控訴人は本件不動産の所有者である右田尻庄作がこれを訴外氷見恒次郎に氷見恒次郎がこれを訴外亡北川長次郎に転売し北川長二郎は相続人北川佐和江(訴訟被告知人)より被控訴人が本件不動産の所有権移転登記手続を訴求せられ昭和二十六年四月三日被控訴人敗訴の判決が確定した事実は争はないが金沢市に於ける不動産売買に於ては登記を完了するまでは所有権は移転しない旨の慣習があり、控訴人と田尻間の売買についてもその慣習による意思があつたのであるから右田尻に所有権が移転する筈がない。控訴人は昭和二十六年四月二十六日仮処分命令により所有権移転の仮登記を了したと述べた』と摘示せり、然れども右摘示は争点たる控訴人の重要なる法律上、事実上の主張を何等摘示せず従つて其の争点の判断を遺脱したる違法あり何者控訴人が原審に於て提出に係る昭和二十六年十月二十三日附(但し原審受附印には同年同月二十五日とあり)第三回控訴人の準備書面第三項乃至第五項の争点の摘示及び判断を遺脱せり。(同準備書面参照記録 丁)
第七点 原判決は事実の部に於て控訴人の主張として前掲の如く摘示せり。
然れども右は明かに釈明権の行使を怠り審理不尽の違法あり。
蓋し前項昭和二十六年十月二十三日附第三回控訴人の準備書面は原審に於ける昭和二十七年六月七日の第七回弁論の際陳述したるものなり、尤も此事は同調書の記載には聊か明瞭を欠くものありと雖も同調書中に『控訴人の問に対し昭和二十六年十月二十五日附控訴代理人提出の準備書面第三項記載の控訴人は本件不動産に付昭和二十六年四月二十六日金沢地方法務局受附第四九四〇号を以て所有権移転の仮登記をしてある事実は認めると釈明し』と記載あるに依りて之を観るも窺知するに十分なり。
第八点 原判決は理由中に於て『(前略)しかうして真正なるものと認める丁第二号証(登記簿謄本)によれば真正の所有権者である右北川佐和江名義に本件不動産の所有権取得登記が為されていることが明らかであるから既に所有権を喪失した控訴人が本訴請求に及ぶのは失当であり云々』と判示せり。
然れども右は理由不備又は法律の解釈を誤りたる違法あり。
蓋し右北川佐和江の所有権取得登記よりも以前に控訴人は所有権移転の仮登記を為しありて北川佐和江に対し対抗力あればなり然るに之に付て何等理由を附ざるものなり。
第九点 原判決は理由中に於て『(前略)原審証人田尻庄作の証言(第二、三回)同証言により真正なものと認める丁第三号証によれば云々』と判示せり、然れども右は理由不備、理由齟齬、審理不尽、採証法則違背の違法あり、即ち第一審に於ける田尻庄作の証言(第三回)を閲読するに『乙第一号証の二を提示す、一、この乙第一号証の二の書類は云々』と証言し居る処(記録一七四丁七桁目以下参照)記録を仔細に精査するに『乙第一号証の二』なる書類は更に提出せられたる事跡なし、然るに同証人の証言と此の証言によりて真正なりと認め丁第三号証(旧乙第一号証)を採りて以て事実認定の資料と為したる誤りあり。
第十点 原判決は事実の部に於て第六点摘記の如く判示せり、然れども右は是亦争点たる控訴人の重要なる法律上、事実上の主張を摘示せず、従つて其の判断を遺脱せり、即ち昭和二十六年七月三十一日附第二回控訴人の準備書面第六項に於て『仮りに順次所有権が移転せられたりとするも抑も不動産の買人は縦令之を転売して所有権を喪失したりとも先づ自己の所有権の取得登記を為し其取得を完全ならしめ然る後に転買人に対して所有権移転登記の義務を尽すべきものなるを以て転売に因り自己の登記請求権を失ふものに非らず(大正四年(オ)第八七九号同五年四月一日大審院判決大審院民事判例要旨類纂四一五頁七行目参照)なる仮定抗弁を提出あるにも拘はらず、之に対し何等の挨拶も為さゞるものなり。
以上原審判決は杜撰、粗漏、不親切、不熱心にして更に記録をも閲読せざるやの観ありて何れの点よりするも到底破毀は免れずと信ず。
以上