最高裁判所第二小法廷 昭和27年(オ)136号 判決
上告人(原告) 福田豊
被上告人(被告) 埼玉県選挙管理委員会
一、主 文
原判決を破棄する。
昭和二六年七月二〇日執行の埼玉県南埼玉郡栢間村農業委員会委員選挙の効力に関し被上告人のした同年一〇月三〇日附訴願裁決を取消す。
右選挙を無効とする。
訴訟費用は原審当審ともに被上告人の負担とする。
二、理 由
上告代理人弁護士萩元隼人の上告理由は別紙記載のとおりである。
原判決の確定するところによれば、昭和二六年七月二〇日執行の栢間村農業委員会委員の選挙に際し、上告人の届け出でた選挙立会人について同村選挙管理委員会は、公平を欠くという理由だけでこれを拒否し、選挙長は自ら選任した立会人三名を立会わしめて本件選挙会の事務を執行したのである。
原判決は右選挙立会人の拒否を違法と認めながら、選挙長の選任した立会人三名が立ち会つたこと、選挙の事務執行につき公正を害されたことを疑うに足る事実の認められないことを理由に、右規定違反は選挙の結果に異動を生ずる虞がないと判示したのである。
しかしながら、公職選挙法七六条、六二条によつて開票所、選挙会の事務に候補者から届け出た立会人を立会わしめることとしているのは、候補者の利益を代表する者をして、これらの事務が公正に行われているかどうかを監視せしめるためと解せられ、従つて本件のように、候補者から届出のあつた立会人の立会を拒否することは結局候補者をして開票所、選挙会の事務が公正に行われたかどうか、結果に異動を生ずる虞のある違法な執行が行われなかつたかどうかを知らしめないことに帰着するのであつて、本件のような措置をもつて公正を害しないものとは到底言うことができない。公職選挙法二〇五条にいう「選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合」とは選挙の結果に異動を及ぼすことが確実である場合に限らないのであつて、違法の程度が軽微であり異動を及ぼす虞のあり得ないことが十分に推察される場合は格別、本件のように選挙の公正を担保するための公職選挙法の規定を無視し、正当な立会人の立会を拒否して選挙会の事務を執行し当選者を定めたような場合は、前記二〇五条にいう「選挙の結果に異動を及ぼす虞のある場合」に該当するものと解するを相当とし、従つて本件選挙はこれを無効とすべきものである。
よつて論旨は理由があり原判決は破棄を免れないのでその他の論旨に対する判断を省略し民訴四〇八条一号によつて自判すべきものと認め訴訟費用の負担について同法九六条八九条を適用し裁判官全員一致の意見をもつて主文のとおり判決する。
(裁判官 霜山精一 栗山茂 小谷勝重 藤田八郎)
上告代理人弁護士萩元隼人の上告理由
昭和二十六年七月二十日執行の埼玉県南埼玉郡栢間村農業委員選挙は、選挙の規定に違反するのみならず、選挙の結果に異動を及ぼす虞が十分にあると認めたので、公職選挙法第二百二条第一項により同年七月三十一日附で、栢間村選挙管理委員会に異議申立をしたが、同委員会は同年八月二十日附で何等の理由も附けないで、右異議申立書を返戻した。依つて原告は、公職選挙法第二百二条第三項に基き同年九月六日附で埼玉県選管へ訴願したが、同年十月三十日附で埼玉県選管から右訴願棄却の裁決通知があつた。此の裁決書を検討するに、埼玉県選管は次の二点を確認していることは明白である。
第一、栢間村の選挙長が、候補者から合法的に届出た正規の立会人(開票及び選挙会の立会人)を不法に拒否した後、独断で立会人三人を選任したという職権濫用の事実。
第二、栢間村選挙管理委員長(不在者投票管理者)が、不正の不在者投票六十六票を故意に合法投票として処理した事実。
右の事実の内、第一は、公職選挙法第七十六条により準用される同法第六十二条の規定に基いて、当然候補者の行うべき立会人選任の権利を選挙長が故意に侵害したものである。即ち憲法第十三条違反であるは勿論、選挙の規定に違反し、且つ選挙の結果に異動を及ぼす虞があると認めたので、前記の如く埼玉県選管に訴願し、次いで東京高裁に出訴したのである。然るに、埼玉県選管は此の訴願を棄却し、東京高裁は此の請求を棄却した。埼玉県選管も東京高裁も共に「候補者の選任した立会人を拒否したことは明らかに違法である」と確認して置きながら、何故に選挙長の勝手に選任した違法立会人を有効と断定したか、其の法的根拠は明示しないのである。公職選挙法第六十二条第十項の規定は、候補者によつて選任された立会人が定数に達しない場合の規定であつて、選挙長は候補者の立会人選任権を侵害してもよいという規定ではない。又、選挙長が候補者の選任した正規の立会人を拒否して選挙を執行した場合、その選挙は有効であるという規定でもない。之れを要するに埼玉県選管は違憲の裁決処分をなし、東京高裁は違憲の判決を下したものと思料する。此の裁決や判決が正しいとすれば、候補者の信頼する立会人は凡ての選挙に立会うことを拒否され、凡ての選挙は闇選挙となり、選挙管理委員会の独断専行が許されることになり、憲法も公職選挙法も空文化する虞がある。且つ、不法行為が正当化され、違法処分が合法化される如き裁決や判決は民主主義に逆行するものであり、国憲国法を護持する態度でもなく、寧ろ法治国を毒する悪例を作るものと思う。この問題は、一寒村に起つた小事件の如く考えるのは軽卒であり、此の判決こそ全国市町村の各種選挙に重大なる影響を及ぼす大問題であると思う。即ち原告は、東京高裁の判決については不服であるので上告する。
上告代理人弁護士萩元隼人の上告理由
右当事者間の昭和二七年(オ)第一三六号農業委員会委員選挙無効請求事件につき、上告理由第一点は既に昭和二十七年二月二十五日提出の上告状に述べてあるが、其の他の理由については詳述してないので、上告理由を補足する為め、左記の通り理由書を提出する。
第一、栢間村の選挙長が、候補者から合法的に届出した正規の立会人(開票及び選挙会の立会人)を不法に拒否した後、独断で立会人三人を選任したという職権濫用の事実。
此の事実に関しては、上告状に述べてあるから略する。
第二、栢間村選挙管理委員長(不在者投票管理者)が、不正の不在者投票六十六票を故意に合法投票として処理した事実。
一、事案の選挙に於ける不在者投票総数は一五三票であるが、その内、不在者投票管理者が故意に不正の不在者投票を受理した数は六十六票に達した。
二、公職選挙法第四十九条第二号に該当する事由に依り不在者投票をなした者は合計十二名であるが、その全部が「不在者投票の事由に該当する旨の証明書」又は「疏明書」を提出していない。これは、法第四十九条及び令第五十二条第一項及び第三項違反であることを承知の上で、不在者投票管理者が故意にこの不正投票をなさしめ、且つ之を合法投票として処理したものである。
尚、昭和二十六年十月十六日、県選管事務局吉田五郎氏外一名が本件訴願に関し調査の為め来村したが、その際、栢間村役場に於て原告(当時訴願人)が審問を受けていた時、栢間村選管書記藤村治三は此の問題に関し、その席上に於て「証明書も疏明書もなかつた」事実を証言して居る。
三、法第四十九条第三号に該当する事由に依り不在者投票をなした者が一四一名あるが、その内、五十四名は役場に於て投票している。この五十四名は何れも令第五十二条第一項に基き「歩行が著しく困難であつて、選挙の当日、自ら投票所に行き、投票をすることが出来ない旨の証明書」を提出した者である事を不在者投票管理者は充分に承知の上で、故意に不正投票をなさしめたものである。
四、この不正の不在者投票六十六票の不正受理行為は、当選者十五名が悉く総崩れとなる程の重大なる比重を持つものである。何となれば、当選者の第一位石井栄作の得票数は百票であるが、この潜在する不正の不在者投票六十六票を控除すれば僅かに三十四票となり、落選候補(次点者)平井政知の得票数六十八票の半数に下落するからである。
此の事実は、不在者投票管理者が職権を濫用して、多数の不正投票をなさしめた不正行為の結果である。即ち、不在者投票管理者の投票管理の違法の程度が余りにも重大であつて、選挙の結果に異動を及ぼす虞があることは、実に火を見るよりも明らかである。
依つて、法第二百五条の適用は当然と思料する。
尚、この不正事実は、不在者投票の処理簿及び不在者投票調書等を見れば一目して明瞭である。
第三、東京高裁の審理は慎重を欠いて居り、その判決は違憲であると思料する。
一、東京高裁は一回も現地に於て実情調査をなさず、唯当事者の提出した書面で審理し、僅かに二回の口頭弁論だけで判決を下して終つた。
二、東京高裁は第一回の口頭弁論の時(昭和二十六年十二月二十二日)、原告が証人として栢間村選挙管理委員を喚問して欲しいと申出たに拘らず、これを却下した。
三、東京高裁の判決は候補者の権利を無視している。
四、東京高裁の判決は、投票管理者の重大なる不正行為を軽視している。
五、東京高裁の判決は国憲、国法を重んじているとは思われない。