最高裁判所第二小法廷 昭和27年(オ)295号 判決 1954年9月17日
主文
上告人の被上告人家村末熊に対する上告を棄却する。
右上告費用は上告人の負担とする。
原判決中上告人と被上告人久保吉二間に関する部分を破棄する。
前項事件を福岡高等裁判所へ差戻す。
理由
職権をもつて審査するに、第一審における被告家村キクは、右訴訟の進行中、昭和二三年四月一四日死亡したけれども、当時同人には訴訟代理人があつたので、訴訟の中断を生じなかつたのであるが、右訴訟代理人は第一審かぎりの訴訟代理人であつたため、右訴訟の被告家村キクに関する部分は第一審判決が昭和二五年一月二七日同人の訴訟代理人に送達せられたことによつて中断したのである。しかるに、上告人(原告)は、右中断につき適法な承継の手続を採ることなく即ち、右訴訟の中断中に右キクの共同相続人の一人たる家村末熊を相手方として(即ち共同相続人の他の一人たる家村新蔵を相手方とすることなく)本件控訴の申立をしたことは記録上明らかであるから、原判決が右の理由により、右家村末熊に対する本件控訴を不適法として却下したことは正当であり、従つて、原判決の右の部分に関する本件上告は理由がない。
次に被控訴人久保吉二(被告、被上告人)の関係について、審査するに、原判決は本訴請求の趣旨を要約して、控訴人(原告、上告人)は昭和六年五月五日株式会社海江田銀行と債権極度額四千五百円日歩三銭四厘の定で当座借越契約を結び、右債務に付控訴人所有の本訴物件に根抵当権を設定し之に基づき金四千五百円を借用したけれども昭和八年四月頃右債務を半額に打切りを受け弁済を了した。
然るに右銀行を合併した株式会社第百四十七銀行は既に弁済によつて消滅している前記債権を昭和八年五月一日家村新蔵に譲渡し、右家村から本訴物件に対し競売の申立をなし其の妻家村キクが之を競落し、次で之を被控訴人久保吉二に売渡し、夫々登記を経ているけれども右の理由で競落、売買共に無効であるから、上告人(原告)は一審被告家村キク及び久保吉二を相手方として右各登記の抹消を求むるものであるとした。そうして、原判決は本件は訴訟の目的が共同訴訟人たる家村キク及び久保吉二の両人に付き合一にのみ確定すべき場合に該当するところ、前段説示のごとく家村キクの承継人家村末熊に対する本件控訴は不適法であるから、右久保吉二に対する本件控訴も結局、不適法に帰するものであるとしてこれを却下したのである。
しかしながら、本件において、家村キクに対する訴は前示のごとく競落を無効として、これを原因とする同人の本件家屋に対する所有権取得登記の抹消を求むるものであり、久保吉二に対する本訴請求は同人が右キクとの間にした売買の無効なることを原因として同人の所有権取得登記の抹消を請求するものであつて、その原因並びに請求は各独立であつて、(ただ右売買の無効は、競落の無効なることから生ずる当然の結果であるという関係があるに過ぎない)その間に「訴訟ノ目的カ共同訴訟人ノ全員ニ付合一ニノミ確定スヘキ」関係に立つものでないことは明らかである。であるから、上告人(原告)は、上告人の被告久保吉二に対する請求を棄却した第一審判決に対しては、上告人の被告家村キクに対する請求に関する第一審判決にかかわりなく、各別に控訴の申立をすることができるのであつて、両者の請求を必要的共同訴訟の関係に立つものとして、上告人の久保吉二に対する本件控訴を不適法として却下した原判決には法令の解釈を誤つた違法あるものというの外なく、この点に関する上告人の上告は理由あり、この部分に関する原判決は破棄を免れないものである。
よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条、四〇七条を適用して主文のとおり判決する。
この判決は、裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)