大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和27年(オ)552号 判決

論旨は、自作農創設特別措置法による土地の買収については民法一七七条の適用があると主張し、この点に関する原判決の判示を非難するのであるが、同法による農地の買収について同条の適用のないことは当裁判所の先例とするところである。(昭和二五年(オ)四一六号、同二八年二月一八日大法廷判決、民事判例集七巻二号一五七頁参照)本訴は未墾地の買収計画に関する事件であるが、右の点については、農地の買収と未墾地の買収とによつて区別をする理由はないから、上告人の主張はこれを採用することができない。よつて民訴四〇一条、九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

この判決は裁判官霜山精一の少数意見を除き裁判官全員一致の意見によるものである。(裁判官霜山精一の少数意見は前掲大法廷判決参照)

(裁判官 霜山精一 栗山茂 小谷勝重 藤田八郎 谷村唯一郎)

上告人代理人増田弘の上告理由

本件は自作農創設特別措置法による土地の買収に際して民法第一七七条が適用あるかどうかに関する事件である。

原審東京高等裁判所は昭和二十六年(ネ)第六〇号農地買収処分取消請求事件において、昭和二十六年六月十五日之が適用ある旨判示して居る。然るに本件に於ては右と反対の見解に出で適用なしとして上告人の抗弁を排斥して居るのであるが、この原審の見解は民法第一七七条の適用を誤つた法令違背の違法があるので茲に上告する次第である。

従来自作農創設特別措置法に基く土地の買収に際して、民法第一七七条が適用ありや否やと云うことについては下級審に於て幾多相反する判決例のあつたことは今茲に一々之を挙示するの要はないと思う。そして、その適用なしとした判決理由の根拠とするところは要約すると、

一、民法第一七七条は私法上の取引安全の規定である。従つて、公権力による買収には、この規定の適用はない。

二、行政庁は一般人の権利を保護しなければならない義務がある。従つて買収に当つては飽く迄も真実の所有者を探究調査しこれに対して為すべきであつて、行政庁の調査不足による過誤を国民に転嫁することは許されない。

三、自作農創設特別措置法の土地の買収に関する要件はすべて真実の土地の所有者を標準として定められて居る。従つて若し登記簿上の所有名義者と真実の所有者と異つて居る場合、登記簿上の所有名義者を以つて所有者として買収したとすると法の目的と合致しない結果が生じて不都合である。

と云うに帰し、之等の敷衍又は組合せにあるようである。

他方適用ありとする判決理由の根拠とするところは之を要約すると、

一、民法第一七七条は別に之を私法上の物権変動に関する場合にのみと限定するの要はない。一般公法関係にも適用されて不都合はなく反つて適用しない方が不都合を生じる。

二、農地買収と云うことは国の政策として短期間に広汎に亘つて行われるのであり、個々の買収土地の権利関係の内容に迄立入つて調査しなければならない煩を行政庁に課するものではない。

三、自作農創設特別措置法の買収とは国が買収して所有権者になるのではあるが、それは一時的技術的なものに過ぎないので、売渡が予想される買収である。当初から国は介在者に過ぎないので売渡人、被買収者間のことであり私人間の所有権の移転と同視すべきものである。

と云うにある。そして之等を消極説と同様夫々組合せ強調したものと謂えよう。

之等の積極、消極両説に於て法理論としては、殆んど間然するところなく甲乙、優劣は無い。

然し乍ら之を理論の問題ではなく現実の自作農創設特別措置法の問題として考えるとき甲乙をつけ優劣をつけなければならないのであつて、その見地から考えて見ると、従来の積極、消極の議論は共に一つのことを忘れて居るのではないかと思われる節がある。

その一つのこととはそれは極く平凡な而も最も重要なことであつて、謂つて見れば法の安定、又は社会的確信とでも云うべきものである。この点の考慮が欠けて居ることを指摘しなければならない。

即ち、不動産の得喪変更は登記法の定めるところによつて登記をしなければ第三者に対抗し得ないと云うことは民法施かれて約半世紀余り、今や社会的確信にまで到達して居ると見て差支えない。成程我国の登記には制度としての公信力はないのであるけれども、社会の登記に対する考え方と登記制度そのものの不断の改善と完備によつて略々公信力を有すると同様にまで社会的確信によつて支持されて来て居る。

而も民法第一七七条は今や法律と云わんより人々の確信によつて自然法的な社会秩序の倫理にまで高められて居ると考えて一向に差支えない状態に迄高揚されて居るのである。

従つて、之を単なる取引の整序に関する技術的規定と解することは社会一般の法確信に反することであり、反つて社会の法安定を害する。

登記制度を完備させ、これに安定を与えることが、結局に於て、不動産の登記なる方法を打ち樹てた目的に副うものであるとしたならば、我国の登記に公信力がないと云う一事を捉え来つて実際にはもう一歩進んでさえ居る社会の登記制度に対する支持と安定感とを裏切り、之を減殺するような解釈を民法第一七七条についてすることは法全体の趣旨に反する。

偶々昭和二十二年(エ)第四十一号事件についての判決に導かれて積極消極の両説が判決例の上に現われたのは如実に民法第一七七条に関しての社会的確信が如何に在つたかを示すものであつて、消極説はいづれも足下現前の事実と法全体の趣旨とを忘れ徒らに法理論を展開したに止りその解釈の違法たるや論ない。

本件に於て原審は上告人の抗弁を、誤つた法解釈のもとに排斥したものであつて破毀を免れない。

以上

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