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最高裁判所第二小法廷 昭和28年(あ)168号 判決 1953年10月16日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役二月及罰金一万円に処する。

但本判決確定後三年間右懲役刑の執行を猶予する。

右罰金を完納することができないときは、金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

第一審並びに当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人下向井貞一の上告趣意第一点について。

右は、量刑不当の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

同第二点について。

原判決がその理由において「尚前科調書の記載及原審公判調書中被告人の供述記載により被告人は昭和二四年九月一日広島高等裁判所に於て昭和二二年政令第一六五号違反の罪により懲役二月に処せられ、当時其の刑の執行を終った事実が認められるので刑法第五六条第五七条に則り懲役刑については累犯加重をした刑の範囲内で被告人を懲役二月及罰金一万円に処し云々」と判示していることは、所論のとおりである。しかして、被告人の右前科の犯罪事実は、記録添付の広島高等裁判所から取り寄せた判決謄本の記載によると、「被告人は公に認められた場合でないのに拘らず昭和二三年三月二七日頃呉市海岸通三丁目三八番地の自宅に於て進駐軍兵士から買受けた連合国占領軍の財産である白砂糖四貫八百匁「チョコレート」一枚「ココア」一缶を所持していたものである。」というのである。しかるに原判決の認めた被告人の前科は、昭和二七年政令第一一七号一条八三号、一一七号により大赦により赦免せられたものである。前科が大赦令によって消滅したに拘わらずこれを前科として累犯加重の規定を適用した原判決は違法であって、刑訴四一一条により破棄を免れないものである。

よって、同法四一三条但書により更に判決をすることとし原判決の是認した第一審判決の確定した事実に法令を適用すると、被告人の所為は昭和二四年政令第三八九号連合国占領軍財産等収受所持禁止令一条、四条に該当するので懲役及び罰金を併科するものとし、所定刑期及び罰金額の範囲内において被告人を懲役二月及び罰金一万円に処し、刑法二五条に従い本裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予し、右罰金不完納の場合における労役場留置について同法一八条、第一審並びに当審における訴訟費用の負担について刑訴一八一条一項を各適用して主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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