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最高裁判所第二小法廷 昭和28年(さ)4号 判決 1953年12月18日

主文

原判決中有罪部分を破棄する。

本件賍物寄蔵の公訴事実について、被告人を免訴する。

理由

検事総長佐藤藤佐の非常上告趣意について。

関係記録を調査すると、被告人は昭和二四年九月一日午前五時頃川口市大字芝三八七四番地の自宅で、木村某という朝鮮人から頼まれて、その頃同人が同市大字柳崎の並木仁左エ門方から窃取して来た自転車一台、みの及び雨合羽各一点を、賍物である情を知りながら翌二日に至るまで同所に保管して賍物の寄蔵をなしたとの犯罪事実並びに賍物収受の犯罪事実について、昭和二四年一〇月三日浦和地方裁判所へ公訴を提起せられ、同裁判所は同年一一月二一日右犯罪事実について被告人を懲役一年及び罰金五千円に処し、但し懲役刑につき三年間右執行を猶予する旨の判決をなし、この判決に対し被告人から東京高等裁判所へ控訴の申立をなし、同裁判所は昭和二五年七月一九日原判決を破棄し、賍物収受の点について被告人を無罪とし、賍物寄蔵の点については、原判決と同一の犯罪事実を認定して、被告人を懲役一年及び罰金四千円に処し、但し懲役刑につき三年間右執行を猶予する旨の判決をなし、この判決は上訴の申立なく同年八月二日に確定した。而して一方、被告人は島崎喜代次、朝鮮人木村某と共謀の上、昭和二四年九月一日午前一時頃川口市大字芝字柳崎六八九番地並木仁左エ門方において、同人所有の中古自転車一台、現金三百円位、小児服地三〇ヤール位、チャンチャンコ二枚、ベビー服三枚、子供シャツ一枚、カッポー着二枚、スリップ三枚、足袋一〇足、配給ネル一二枚、小児用靴下一五足、糸二匁位、合羽一着を窃取したとの犯罪事実について、前掲公訴の後たる昭和二五年二月一八日川口簡易裁判所へ公訴を提起せられ、同裁判所は同年四月一一日右公訴事実と同様の犯罪を認定して、被告人を懲役一年に処し、但し三年間右刑の執行を猶予する旨の判決をなし、この判決は上訴の申立なく同月二五日確定した事実を認めることができる。しかるに叙上二個の公訴事実は、一つは窃盗、他は賍物寄蔵であって一見異なる如くであるが、関係記録を精査すれば、犯罪の日時、被害物件及びその所有者等基本事実関係において異なるところなく、両者同一の公訴事実であることが認められる。してみれば同一事件につき後に公訴を受けた裁判所は有罪の判決をなすことができないにかかわらず有罪の判決をなし、その判決が最初に公訴を受けた裁判所の裁判より先きに確定するに至ったとしても、本案につき審判権を有する裁判所の判決と同様の確定力を生ずるものであるから、本件東京高等裁判所としては、同一事件につき確定判決を経たものとして刑訴三九七条、三九二条、四〇四条、三三七条一号の規定により原判決を破棄し、賍物寄蔵の犯罪について免訴の判決をなすの外ないものである。しかるに免訴の判決をなさずして自ら被告人に対し刑を言渡した東京高等裁判所の判決は結局その審判法令に違反した違法がある。それ故、本件非常上告は理由がある。

よって同四五八条一号により右東京高等裁判所の判決中有罪部分を破棄し、同三三七条一号に則り、本件賍物寄蔵の公訴事実について、被告人を免訴すべきものとし、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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