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最高裁判所第二小法廷 昭和30年(あ)1627号 判決 1957年9月20日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人向江璋悦の上告趣意第一点は、事実誤認、単なる訴訟法違反の主張を出でないものであり、同第二点は、量刑不当の主張であって、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

同第三点について

憲法七六条三項にいう裁判官が良心に従うとは、裁判官が有形無形の外部の圧迫ないし誘惑に屈しないで自己の内心と道徳感に従う意味であることは、当裁判所の判例とするところであり(昭和二八年(あ)一七一三号同三二年三月一三日大法廷判決、集一一巻三号九九七頁参照)、現行法上控訴審はいわゆる事後審として認められているのであって、控訴審は第一審判決の当否を判断するため控訴趣意書に包含された事項は、必ずこれを調査しなければならないが、控訴趣意書に包含されない事項であっても、控訴申立の理由となりうる事由に関しては、職権で調査をすることができるものとされているのである。そして、裁判の審級制度については、憲法上同法八一条以外の場合は法律をもって適当に定めうるものと解すべきこと及び裁判所の組織、権限等については、すべて法律において諸般の事情を勘案して決定すべき立法政策上の問題であって、憲法適否の問題でありえないことは、当裁判所判例のしばしば判示するところである(昭和二二年(れ)五六号同二三年二月六日大法廷判決、集二巻二号二三頁、昭和二二年(れ)四三号同二三年三月一〇日大法廷判決、集二巻三号一七五頁、昭和二二年(れ)一二六号同二三年七月一九日大法廷判決、集二巻八号九二二頁、昭和二三年(れ)二八一号同二五年二月一日大法廷判決、集四巻二号八八頁参照)。従って、控訴審にいかなる事項をもって上告の理由とするか、また、職権調査の範囲をいかに定めるかは立法上の問題であり、憲法八一条の外は何らこれを制限した規定は存しないのであるから、刑訴三九二条がその二項において、控訴審に職権調査の義務を課さなかったからといって、これを目して憲法一三条、七六条三項に違反するということはできない。なお、刑訴四一一条が違憲でないことも、当裁判所屡次の判例とするところであるから(昭和二四年新(れ)四八一号同二五年七月二五日第三小法廷判決、集四巻八号一五一九頁、昭和二五年(あ)三二六号同年九月七日第一小法廷決定、集四巻九号一六三一頁)、所論は採用できない。また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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