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最高裁判所第二小法廷 昭和30年(あ)212号 判決 1958年2月21日

主文

原判決を破棄する。

被告人は無罪。

理由

弁護人柳原武男の上告趣意は末尾添付のとおりである。

職権により調査すると、本件公訴事実は、「被告人は昭和二七年一二月三〇日頃の午後一一時半頃肩書自宅において、吉川勝美が川崎市宿河原一九六〇番地帝国化学工業株式会社工場内より同工場長早田重成の管理にかかる銅製艶付板三二枚(価格九万六千円相当)を窃取するに際し、同人より『例の銅板を会社から持出すからリヤカーを貸して呉れ』との依頼を受けこれを承諾し、同人にこれを貸与しよって同人の犯行を容易ならしめ以って窃盗の幇助をしたものである」というのであり、検察官は第一審第二回公判廷において、「被告人は昭和二七年一二月三一日頃肩書自宅において、吉川勝美から同人が他より窃取して来たものであることの情を知りながら、銅製艶付板三二枚(価格九万六千円相当)を金三万円で買受け以って賍物の故買をしたものである」との事実を予備的訴因として追加を請求し、第一審は被告人および弁護人の同意を得た上検察官の右追加請求を許可したけれども、審理の結果、右本位的訴因を有罪と認定し被告人を懲役一〇月に処したのであるが、原審は、第一審判決の右事実認定は証拠の価値判断を誤り事実誤認に出でたものであるとして被告人の控訴申立を理由ありとし、第一審判決を破棄自判の上、前記予備的訴因の賍物故買の事実を有罪と認定し被告人を懲役八月及び罰金二万円に処したことが認められる。

そして、訴因の追加変更は公訴事実の同一性を害しない限度においてのみ許容されること、刑訴三一二条一項の明定するところであるから、原審が右の措置に出でたのは、右予備的訴因の事実が前記本位的訴因の事実と公訴事実の同一性を害しないものと解した結果であると認める外はない。

しかし、窃盗の幇助をした者が、正犯の盗取した財物を、その賍物たるの情を知りながら買受けた場合においては、窃盗幇助罪の外賍物故買罪が別個に成立し両者は併合罪の関係にあるものと解すべきである(昭和二四年(れ)第一五〇六号同年一〇月一日第二小法廷判決刑集三巻一〇号一六二九頁、昭和二四年(れ)第三六四号同年七月三〇日第二小法廷判決刑集三巻八号一四一八頁参照)から、右窃盗幇助と賍物故買の各事実はその間に公訴事実の同一性を欠くものといわねばならない。そして本件における前記本位的訴因、予備的訴因の両事実も、右説明のように、本来併合罪の関係にある別個の事実であり従って公訴事実の同一性を欠くものであるから、前記賍物故買の事実を予備的訴因として追加することは許容されないところといわねばならない。しかるに、第一審裁判所が検察官の前記追加請求を許可したのは刑訴三一二条一項違背の違法があり、この違法は相手方当事者の同意によってなんらの影響をも受けるものではない。それ故、原審が、前記本位的訴因については第一審判決の有罪認定を事実誤認ありとしながら、これにつき、主文において無罪の言渡をなさず、却って、第一審の右違法の許可に基ずき、本件公訴事実と同一性を欠く前記予備的訴因の事実について審理判決をしたのは、刑訴三七八条三号にいわゆる「審判の請求を受けない事件」について判決をした違法があるものといわねばならない。

従って、弁護人の上告趣旨に対し判断をするまでもなく、原判決の右違法は、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。

よって、刑訴四一一条一号により原判決を破棄し、更らに本件につき判決すべきところ、被告人に対する前記本位的訴因たる公訴事実はこれを認むるに足る証拠不十分で犯罪の証明がないから、同四一三条但書、四一四条、四〇四条、三三六条を適用の上、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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