最高裁判所第二小法廷 昭和30年(あ)3712号 判決 1958年3月28日
主文
本件各上告を棄却する。
当審における訴訟費用は被告人竹内正昭、同竹内邦博の平等負担とする。
理由
被告会社および被告人竹内邦博、同竹内正昭の弁護人岩村隆弘、岩村辰次郎、被告人竹内邦博、同竹内正昭の弁護人名川保男の上告趣意は、法令違反と量刑不当の主張、被告人竹内邦博、同竹内正昭の弁護人長谷川一雄の上告趣意は、法令違反の主張であって、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
なお、所論法令違反の主張について左のとおり附加する。
本件缶詰類についての物品税と取引高税は、昭和二四年法律二八六号(以下法二八六号と略す。)および同年法律二八五号(以下法二八五号と略す。)によって、その各施行期日である昭和二五年一月一日以降廃止されたのであるが、右施行前に課し又は課すべきであった物品税および右施行前に取引金額を受領した取引に係る取引高税については、法二八六号附則二項および法二八五号附則三項が「なお従前の例による」旨を規定しているので、それらの納付等については右各法律施行後においてもなお従前の各法律の適用があるわけである。しかし、右附則二項および附則三項の各規定は、右の趣旨を規定したに止まり、その逋脱に関する行為の処罰についてまで規定した趣旨のものとは解せられない。また、法二八六号附則八項および法二八五号附則一〇項にいう「この法律施行前にした行為」とは、右各附則の他の規定の文言および他の法律等において使用されている一般の用語例に徴して見ても、その文言どおり、右各法律施行日である前記日時以前の行為を指示するものであって、その施行後の行為を意味するものとは解せられない。されば、前記附則二項および附則三項の各規定によって、「従前の例による」とされた物品税、取引高税の逋脱に関する行為であっても、それが右各法律施行後に属するものであるかぎり、前記所定の「この法律施行前にした行為」には該当せず、従って、右附則八項および附則一〇項の各規定は、右各法律施行後に成立する犯罪については、なんらの関係がなく、その適用がないといわねばならない。
ところで、本件缶詰類に対する昭和二四年一二月分の所論各租税は、前記附則二項および附則三項の各規定によって従前の例によることとなり、物品税については昭和二五年一月末日までに、また取引高税については同年一月一〇日までに納付すべきであり、その逋脱犯が成立するものとすれば、右各納期日の徒過によって既遂となるものと解すべきであるから(昭和三一年(あ)四七号、同年一二月六日第一小法廷決定、刑集一〇巻一二号一五八三頁参照)、かように前記各法律施行後に成立する逋脱既遂犯を前記附則八項および附則一〇項の各規定によって従前の各法律を適用処罰し得ないことは明白である。しかるに、原判決が、昭和二四年一二月分の所論各租税について、その逋脱既遂犯が右各法律施行後に成立すると解しながらも、なおそれは、前記附則二項および附則三項の各規定の趣旨から前記「この法律施行前にした行為」に該当すると解すべきであるとしたのは、まことに所論指摘のとおり、法令の解釈を誤った違法があるといわねばならない。
しかし、一審判決挙示の各証拠によれば、所論昭和二四年一二月の物品税および取引高税についても、その以前のものと同様、当初からこれを逋脱する目的で、製品を製造場から移出他に販売するに際し、B伝票を作成し、B伝票による分についてはその数量、受領代金等をすべてB帳簿(一審判決摘示の別途の総勘定元帳、現金出納簿)に記入して所轄税務官吏の検査に供すべき正規の帳簿に記入せず、しかも右B伝票B帳簿は右税務官吏に対しては秘密の取扱いをし、そして翌月一〇日までになすべき法律所定の各申告は、右脱漏された正規帳簿に基づいて過少申告をするという方法によって、その脱税をしたものである事実が認められる。一審判決の判示第一および同第二(二)の事実摘示は、十分その意を尽くしていないけれども、その挙示の各証拠と対照すれば、右の趣旨であると認めるのが相当である。そして、右のように、物品税又は取引高税を逋脱する目的で、製造場から製品を移出販売しその代金を受領しながら、これについては所轄税務官吏には秘密の伝票帳簿を作成記入し、右官吏の検査に供すべき正規の帳簿に記入しないようなことをすれば、その行為は、法二八六号による改正前の物品税法一八条一項にいう「不正の行為により物品税を逋脱せんとした」、又は法二八五号による廃止前の取引高税法四一条一項三号の「不正の行為により取引高税を免れようとした」ものに当ると解するを相当とする。さすれば、所論昭和二四年一二月分の各租税について前記行為が法二八六号および法二八五号各施行前の同月中になされていることはいうまでもないから、その所為は、前記「この法律施行前にした行為」に該当し、右改正又は廃止前の各罰則により「逋脱せんとした」又は「免れようとした」ものとして処罰を免れないものといわねばならない。
されば、一審判決およびこれを維持した原判決が、所論昭和二四年一二月分の各租税についてその逋脱既遂犯を認定処罰したことは、前記のような法令解釈の誤りに出でた違法があるけれども、所論各所為は結局において右各判決の適用したものと同一罰条によって処罰を免れないものであること前示のとおりであるから、右の違法はいまだ刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
よって同四〇八条、一八一条(被告人竹内正昭、同竹内邦博のみ)により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)