最高裁判所第二小法廷 昭和30年(オ)419号 判決 1957年11月01日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
第一 上告代理人中曽根貞良の上告理由について。
(一)論旨第一点について。
自作農創設特別措置法第二条によれば、同条にいう小作地とは、耕作の業務を営む者が賃借権その他の権利に基きその業務の目的に供している農地をいうのであるが、ここに耕作の業務を営むというのは、耕作者と地主との間において、耕作経営の主体が耕作者の側にある場合を指すものであつて、耕作者の側において、耕作の規模が零細であることや農業以外に兼業を有することは、かような耕作者を買収農地の売渡を受くべき有資格者と解することの妨げとはなつても、第二条の関係において、これを耕作の業務を営む者と解することの妨げとなるものではない。所論は採用し得ない。
(二) 論旨第二点について。
買収の目的地は買収令書において特定されていなければならないことは所論のとおりであるが、買収令書に買収目的地の表示として一筆の土地の一部を単に地積を表示して掲げているに過ぎない場合においても、買収手続当時の事情の下で、右の表示が一筆の土地のうちの特定の一部を指すものであることが関係当事者間に疑を容れない程度に看取し得る場合には、これをもつて買収令書において買収目的地が特定されていると解するに妨げがなく、論旨引用の判例も、かような場合においてもなお図面の添附その他の方法により目的地の範囲を余すところなく詳細に掲げないかぎり買収処分はすべて違法・無効となるものとする趣旨とは解すベきものではない。本件買収令書においては、買収目的地の表示として一筆の土地の一部を単に地積を表示して掲げているに過ぎないが、原判決の認定事実によれば、上告人は不在地主としてその所有小作地をすベて買収される運命にあり、買収手続当時の事情の下で、一筆の土地のうち上告人が小作に付していた特定の部分を買収する趣旨であることが関係当事者に疑を容れない程度に看取し得る状況にあつたものと解すベきであるから、右の表示をもつて買収目的地が買収令書において特定されていたと解するに妨げがなく、(仮に、買収目的地の範囲の特定が不完全であるという理由で、本件買収処分に瑕疵があるとしても、右の瑕疵は、前記事情の下では、買収処分の当然無効の事由となるものではない。)それ故、所論は採用することができない。
第二 上告人本人の上告理由について。
論旨中買収目的地が買収令書において特定されていたとする原審の判断を攻撃する部分の理由がないことは、前述のとおりであり、その余の部分は、要するに、原審の事実認定を攻撃するに帰し、採用の限りでない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)