最高裁判所第二小法廷 昭和30年(オ)993号 判決 1958年6月06日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人盛川康の上告理由第一点について。
被上告人は、本訴において、本件土地の所有権にもとづき、その地上に家屋を所有し右土地を占有している上告人に対し、家屋収去土地明渡を請求するものであり上告人はこれに対し、右土地の賃借人から右家屋を買い受けるとともに被上告人の代理人の承諾を得て土地賃借権の譲渡を受けた旨主張し、更に、仮に賃借権譲渡の承諾がないときは地上家屋のうち所論(ロ)の家屋の買取請求をなした上、その代金債権にもとづき留置権を行使する旨の抗弁を提出したのである。原審は、右承諾の事実を認めず、買取請求にかかる(ロ)の家屋については当事者間に売買契約が成立したと同一の効果を生じその所有権が被上告人に移転した旨判断したのであるから、被上告人は右家屋についてはその引渡を求め得るにすぎなくなつたわけであるが、かかる請求は本件における家屋収去土地明渡の請求に包含されているものと解するのが相当であり、また、物の引渡請求に対する留置権の抗弁を理由ありと認めるときは、裁判所は、その引渡請求を棄却することなく、その物に関して生じた債権の弁済と引換に物の引渡を命ずべきであることは当裁判所の判例とするところである(昭和三三年三月一三日昭和三一年(オ)第九六六号事件第一小法廷判決)。論旨は理由がない。
同第二、三点について。
原判決は、適法に、証拠にもとづき鈴木時春には、被上告人を代理して賃料を受領する権限のなかつたことを認定しているのであつて、論旨は、或は右事実の認定を攻撃し、或は右権限の存在を前提として原判決の違法を主張するものであつて、採用することはできない。
同第四点について。
上告人は原審において、第一審判決事実摘示のとおり事実上の主張をしたことはあきらかであつて、所論の主張は、原審においてなされた形迹はみとめられない。論旨は理由がない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)