大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和31年(オ)169号 判決 1958年10月17日

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差戻す。

理由

上告代理人中島登喜治の上告理由について。

本件土地に対する上告人の賃借権は、罹災都市借地借家臨時処理法一〇条所定の借地権に該当することは原判決の確定するところによつて明瞭である。従つて、上告人はその借地権の登記及びその土地にある建物の登記がなくても、その借地権をもつて、昭和二一年七月一日から五箇年以内にその土地について権利を取得した第三者に対抗することができることは同条の明定するところである。されば上告人は、右期間内に本件借地権の目的たる地上に何等の権原なくして建物を建設し、不法に該土地を占有する第三者に対して、借地権の登記及びその土地にある建物の登記なくして、その借地権を以て対抗し得べきことは勿論である。

本件において、上告人は第一審以来、被上告人は何等の権原なく本件宅地をその上に建物を建築所有して不法に占有するものであると主張し、本訴において、建物収去土地明渡を訴求して来たことは(はじめは土地の所有者に代位し、後には自ら賃借権を主張して)本件弁論の経過に徴しあきらかであつて、若し被上告人が上告人主張のごとく、本件土地の不法占有者であるとするならば、たとえ、右上告人の訴訟進行中に、同法一〇条所定の五箇年の期間が経過したとしても、それがために上告人はその賃借権の被上告人に対する対抗力を失うものではなく、上告人は依然該訴訟において家屋収去土地明渡の請求を継続し得るものと解すべきである。

ただ、原判決は被上告人は、右の五箇年の期間経過後である昭和二八年二月一八日に本件土地の所有者から本件土地を買受けてその所有権を取得した事実を認定し、これがため上告人は最早本件賃借権をもつて新所有権者たる被上告人に対抗し得ないものであると判示したのであるが、上告人が不法占有者たる被上告人に対する関係においては、五箇年経過の後もその賃借権をもつて被上告人に対抗し得べきことは前段説示のとおりであつて、たまたま、被上告人が右期間経過後にその土地の所有者となつたからといつて、それがために上告人は、その賃借権の対抗力を失うものと解すべきではない。けだし法一〇条が、同条の定める借地権につき五箇年内に権利を取得した第三者に対抗することができるものとしたのは、これによつて借地権者に当座応急の保護を与える一方、期間満了の頃までには、借地権者において、その土地に建物を建築し登記をすることによつて、建物保護法による対抗要件を具備できるものとし、これによつて五箇年経過後も対抗力の存続を可能ならしめようとしたものに外ならない。右の法意から考えると、もし被上告人が、上告人主張のように本件土地を不法に占有して地上に建物を建設していたものとすれば、被上告人は、上告人が地上に建物を建築して登記し借地権につき対抗要件を具備することを妨げたものというべく、かかる場合、なおかつ、被上告人に対する対抗力を失わしめるものと解するがごときは、信義の法則にもとり法一〇条の法意に副う所以でないというべきであるからである。

原判決がこれ等の法意に留意するところなく、また、如上事実関係につき十分の審理を遂げることなく、前叙のごとき理由によつて、たやすく上告人の本訴請求を棄却したのは、法一〇条の解釈をあやまつたか審理不尽の違法あるを免れないというべきである。

よつて、民訴四〇七条により、全裁判官一致の意見をもつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例