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最高裁判所第二小法廷 昭和31年(オ)252号 判決 1960年6月24日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人阿部甚吉、同板持吉雄の上告理由第一点について。

原判決が正当に判示しているように原審認定のような事情があつても特段の事由のないかぎり本件相殺契約は権利行使の範囲を逸脱したものとはいえないから、その結果契約当事者でない上告人が不利益を被ることがあつても右相殺契約を目して上告人の判示債権に対する違法な侵害というを得ない。従つて上告人主張の債権侵害による損害賠償の請求は結局排斥を免れず、これと同趣旨にでた原判決は正当であつて、所論は理由がない。

同第二点について。

所論は不特定物売買における目的物の所有権移転時期に関する原判決引用の一審判決の判示を非難するが、不特定物の売買においては原則として目的物が特定した時(民法四〇一条二項参照)に所有権は当然に買主に移転するものと解すべきであるから、右判決が「不特定物の売買においては、特に売主にその所有権を留保するという特約が存しない以上特定の時をもつて所有権が買主に移転するものと見るべきである」旨判示したのは正当であつて、所論は採用できない。

同第三点について。

原判決引用の一審判決は、上告人提出のすべての証拠によつても、所論の事実を認め得ない趣旨を判示し右証拠を採用できない旨を明らかにしていること同判文上明白であり、証拠排斥の理由は一々これを説示することを要しないから、所論は採るを得ない。

同第四点について。

原判決は判示認定のような経緯のもとに債権者である被上告人が自己の債権をもつて債務者である訴外山田に対する債務と相殺する旨の契約をなし自己の債権の満足を図つたのはたとえこれにより右契約の当事者でない上告人が損失を被つてもやむを得ないところで何等信義誠実の原則に反するものでないと判断したのであつて、この判断は正当であり、所論は採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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