最高裁判所第二小法廷 昭和31年(オ)262号 判決 1957年7月05日
長崎県北松浦郡大島村字神浦七五番地
上告人
山田誠
佐世保市本島町八四番地
被上告人
石丸祐作
右当事者間の所有権移転登記手続請求事件について、福岡高等裁判所が昭和三〇年一二月二二日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告理由について。
原審は、所論売買契約の際、上告人山田誠の母ヨシエは、その場に同席しながら右売買契約についてなんら反対の意思を表示せず、また右実地の測量が行われたときも、右ヨシエはこれに立会いながら別段これに反対しなかつたものであり、結局、右売買については上告人山田誠の親権者たるヨシエの承諾があつたとの事実を認定しており、原審挙示の証拠によれば右認定は十分首肯できる。而して、かゝる事実関係の下においては、他に特段の事情が認められない以上、右売買については、上告人山田誠の親権者たる源三郎およびヨシエが共同して親権を行使したものというを相当とする。所論は、結局、原審が適法にした証拠の取捨判断、事実認定を争い、かつ、これを前提として独自の主張をするに帰し、採用することを得ない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)
昭和三一年(オ)第二六二号
上告人 山田誠
被上告人 石丸祐作
上告人の上告理由
原判決は法令の適用を誤つて事実を認定したものである。
上告人山田誠は、仮に本件売買契約が成立したとしても、右契約は上告人の親権者の一人たる父山田源三郎のみが単独でしたものであつて、上告人の母山田ヨシエがこれに関与しなかつたものであるから、右売買の意思表示は無效か若くは取消しうべきものだとの旨の抗弁をしたのに対し、原判決は「被控訴人(被上告人)と控訴人(上告人)の父源三郎との間に本件売買がなされた際に母ヨシエも同席しながら右売買について何等反対の意思表示をしないばかりでなく、進んで被控訴人に金が要るようになつたので売らねばならないと告げ、又その頃売買のための土地測量にも立会いながら別段これに反対せず、その後被控訴人の父源三郎が被控訴人から本件代金の領収する際にもこれに同席して本件売買について反対の意思表示をした事実のなかつたことが認められるので、これ等の事実よりすれば特に反対の事実の認められざる限り、本件売買契約については控訴人の親権者たる右ヨシエの承諾の下に親権者たる源三郎及びヨシエの両名が共同名義で子に代つてしたものと認めるが相当である」と判示した。
(1) 然るに仮に母ヨシエに前記の通りの行為があつたとしても、その当時は、ヨシエとしても、これは未だ新憲法下の親族編改正の事実に習熟せず、誠の母ではあるがその親権者として共同法定代理人である法律事実を知らなかつたものであるから、前記原判決認定の諸行為はすべてヨシエ個人として、源三郎の妻としての行為であつて、誠の親権者(法定代理人)としての行為である筈はない。
第二審証人山田ヨシエの調書中第六項第八項第九項その他。
同控訴人本人山田源三郎の調書中第十一項その他、参照
ヨシエの意思表示の效力が上告人誠に対して生ずるためには、ヨシエが上告人誠の為にすることを示して(仮令黙示的にせよ)為されたものでなければならない(民法第九十九条)のに、前記の如く、当時ヨシエは誠のための法定代理権を持つていることをすら全く知らなかつたので、誠の為めにすることを示して原判決認定の行為を為したものでなく、又斯る行為を為す筈が全くなかつたことは甚だ明かである。
前記証人山田ヨシエの調書参照、
尚ヨシエが、自分が誠の共同代理人であることを当時知つていたと云う事実は之を証明すべきものは何等存在しない。
(2) ヨシエは上告人誠の財産が売却せられることは固り賛成していなかつたのであるから、仮にヨシエが源三郎と同席しながら何等反対の意思表示をしなかつた等の事実があつたとしても、右等の表示行為は元来ヨシエに於ては売買の法律效果の発生を欲する意思(效果意思)を伴わなかつたものであるので、之を以つて売買を承諾してヨシエが源三郎と両名共同の名義で子に代つてしたものと認めることは到底出来得ないことである。
第二審証人山田ヨシエの調書第九項等参照。
(3) 即ちヨシエは本件売買についての意思表示を直接被上告人に、又はその意思表示を為すことを源三郎に委任することを為したこともなく、仮に之を為したとしても上告人誠の法定代理人たる資格の下に為したと謂うことを得ないものである。
この点に於て原判決は法律の適用を誤り違法である。
以上の如き法令の違背は判決の結果に影響を及ぼすものであることが極めて明かであるから、原判決を破毀して更に相当な御裁判あらんことを求める次第である、
以上