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最高裁判所第二小法廷 昭和31年(オ)534号 判決 1960年7月08日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人藤田協の上告理由第一点について。

本件為替手形は、上告人葛原の被上告人に対する判示商品売買代金債務の支払確保のため上告人において振出し、かつ引受けたものであることは原判決の確定するところである。

そして右手形は他の権利と共に被上告人から株式会社四国銀行に対し、債務担保のため裏書譲渡されたことはまた原判決の確定するところであるけれども、既存債務の支払確保のために振出交付された手形は、債権者債務者間に裏書禁止の特約のない場合には、債務者から既存債務の履行のないかぎり、債権者において該手形を第三者に対し更に担保のため裏書譲渡することは妨げなく、しかも、右裏書の事実によつて直ちに債務者は既存債務の支払を免れるものでなく、債権者において右手形の裏書人としての償還義務を免れるまでは債務者に対する既存の債権は消滅するものでないと解すべきことは原判示のとおりであつて、所論のように、債権者は償還義務の履行その他の方法によつて右手形を自己に回収するまでは既存債権を行使し得ないものと解すべき根拠はないのであるから、論旨は採用することができない。もつとも、かかる場合債務者は、特段の事由のないかぎり、既存債務の支払は手形の返還と引換にする旨の同時履行の抗弁を為し得るものと解すベきである(昭和二九年(オ)第七五八号、同三三年六月三日第三小法廷判決、民集一二巻九号一二八七頁参照)けれども、上告人は原審においてかかる抗弁を提出した形迹はないのみならず、原判決の認定するところによれば、本件当時者間には「本件五十万円の債務を決済した後、被上告人から右手形が無効に帰した旨の証明文書を手交する」旨の特約が成立したというのであるから、既存債務の履行と手形の返還とが同時履行の関係に立つものでないこともあきらかである。

同第二点について。

論旨は原判示を正解しないことにもとずくものであつて原判決に所論のような理由そごの違法を認めることはできない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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