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最高裁判所第二小法廷 昭和32年(あ)2671号 決定 1960年11月30日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人信部高雄、同鬼倉典正の上告趣意第一点及び第三点について。

論旨は、原判決の違憲をいうけれども、その実質は、国家公務員法一〇〇条一項にいう職務上知ることのできた秘密の意義について原判決の判断を争うもので刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

しかも、論旨にかんがみ本件をみるに、原判決の支持した第一審判決の認定によれば、被告人が職務上配布を受けた本件「国際経済機関」上巻には、わが国の「関税及び貿易に関する一般協定」(ガット)への加盟を目的とする対外交渉に関して必要な情報源等の記載があり、また同下巻には、わが国の国際小麦協定加入の経緯、買入保証数量が幾何屯に落着した事情、右協定加入交渉に関し必要な情報源等の記載があるほか、右上・下巻共に、個々の外交問題についてのわが国外務当局の基本方針、交渉方法等に関する具体的記述があって、これらがいずれも国際信義上からもまたわが国外交政策上からも公表せらるべき事柄でないため、担当の経済局第二課長の指示により適式に秘扱とせられたというのであり、挙示の証拠によれば優に右事実を認定するに足りる。従って右は単に形式的に秘扱とせられたというにとどまらず、実質的にも職務上知ることのできた秘密に当ると解するを相当とする。それゆえ第一審が右被告人の所為につき国家公務員法一〇〇条一項、一〇九条一二号を適用し、原判決がこれを支持して控訴を棄却したのは正当であって、論旨は採るをえない。

同第二点及び第四点について。

論旨は、原判決の違憲をいう点もあるが、その実質は、単なる法令違反の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

同第五点及び第六点について。

論旨は事実誤認、量刑不当の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田 克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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