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最高裁判所第二小法廷 昭和32年(あ)3063号 決定 1958年3月12日

被告人 B(外一名)

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人Bの弁護人大脇英夫の上告趣意は、結局量刑不当の主張に帰し、適法な上告理由に当らない。

被告人Cの弁護人原良男の上告趣意は、単なる法令違反の主張であつて、適法な上告理由に当らないのみならず、所論少年法六〇条にいう「人の資格に関する法令」には累犯加重に関する刑法の規定を包含しないと解すべきであるからこの点の原判示は正当である。

また本件につき記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

弁護人大脇英夫の上告趣意

原判決は本件犯行の情状につき判断を誤り被告人に対し刑の執行を猶予しなかつたところこれを破棄しなければ著しく社会の正義に背くものと信じます。その理由は弁護人提出の控訴趣意書の通りであつてすべて同趣意書を援用するものであるが更にその要旨を摘記するに、

一、被告人は当二二年の弱年者であり。二、朝鮮人であつて正規の教育を受けず教養低いものであり、且良好な環境に生育したものではない。三、本件被害につき三万円を弁償した。四、被告人実父等は今後被告人の監督指導を厳にし更生に努めている。

以上の点は第一、二審公判調書によつて明白であり。然らば被告人に対しては情状刑の執行を猶予すべきものであるに拘らず実刑を宣告したのは甚だ過重であつて社会の正義に反するものであり破棄せらるべきものである。

弁護人原良男の上告趣意

原判決には刑事訴訟法第四百十一条第一号に該当する違反がある。

一、原判決は、被告人の昭和二十八年四月二十一日松江地方裁判所に於ける賍物故買罪の懲役一年六月以上同三年以下の前科をもつて累犯としての前科の取扱いをなし又従来の判例も少年法第六〇条にいわゆる人の資格に関する法令には累犯、刑の執行猶予に関する規定は含まないと宣言している。

二、しかしながら「人の資格に関する法令」を従来の判例のように解するならば、特殊の職業につく者についてのみ適用されるに過ぎないのであつて、そのような事例は絶無に近く、実際の運営においては全く空文に等しいものなのである。

三、少年に不定期刑を科する趣旨は明らかに少年の改化遷善であつて、決して応報の目的でないことは明らかである。又少年法のその他の各種の制度はいずれも少年を成年と区別し、その将来の更生を計ることを唯一の目的としているに照らせれば、少年時代の不定期刑については、将来に向つて累犯や、刑の執行猶予の規定にいう前科の取扱いをしないのが少年法の精神に合致するものといわねばならないのであつて「少年法第六〇条の人の資格に関する法令」には右累犯及び前科の規定も包含すると解釈するのが正当である。

参照 第一審判決の主文及び理由

主文

被告人Bを懲役一年に処する。

訴訟費用中証人高木久夫に支給した分は右被告人の負担とする。

被告人Cを懲役五月及び罰金参千円に処する。

右罰金を完納することができないときは弐百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用中証人小林満俊に支給した分は右被告人の負担とする。

被告人Dを懲役十月に処する。

但し本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

被告人Eを懲役十月に処する。

但し本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

罪となるべき事実

第一 被告人B及び同Dは

(一) F等と三名共謀の上、昭和三十一年十二月二十六日頃の午後八時頃○○町通称××町において△△金属工業株式会社所有の鉄道引込線用レール二本を

(二) G、H、Iと五名共謀の上、同三十二年一月七日頃の午後八時前同所において前記会社所有の鉄道引込線用レール五本をそれぞれ窃取したものである。

第二 被告人Cは昭和三十二年一月八日頃○○町の自己倉庫においてAことB外二名より、同人等が窃取して来た前記第一事実(一)の鉄レール二本を、それが盗品であることを知りながら代金七千五百円で買受け、以て賍物の故買をなしたものである。

第三 被告人B及び同Eは、JことKと三名共謀の上、昭和三十二年五月四日頃夜○○町×××町所在○○土建株式会社出張所倉庫において管理のトロッコ軸付車輪十四個を窃取したものである。

被告人Cの累犯前科

昭和二十七年三月八日松江地方裁判所、賍物故買懲役一年六月以上三年以下(昭和二十八年四月二十一日確定)(その後昭和二十七年政令第一一八号減刑令により懲役一年一月十五日以上二年三月以下と変更)

証拠の標目<省略>

法令の適用

被告人Bにつき

刑法第二百三十五条、同第六十条、同第四十五条前段、同四十七条、同第十条、刑事訴訟法第百八十一条第一項。

被告人Cにつき

刑法第二百五十六条第二項、同第十八条、同第五十六条、同第五十七条、刑事訴訟法第百八十一条第一項。

被告人Dにつき

刑法第二百三十五条、同第六十条、同第四十五条前段、同第四十七条、同第十条、同第二十五条。

被告人Eにつき

刑法第二百三十五条、同第六十条(少年法第二条、第五十二条第三項)、刑法第二十五条、刑事訴訟法第百八十一条第一項但書。(訴訟費用に負担せしめない)

以上により主文のとおり判決する(昭和三二年七月二七日松江簡易裁判所)

第二審判決の主文及び理由

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

理由

被告人Bの弁護人、大脇英夫、被告人Cの弁護人原良男の陳述した控訴の趣意は、記録編綴の各控訴趣意書記載のとおりであるからこれを引用し、これに対し当裁判所は次のとおり判断する。

大脇弁護人の論旨について、

被告人Bに対する原判決の量刑は不当に重過ぎるとの所論につき、記録を精査してこれを検討する。被告人が朝鮮人で教育程度の低い弱年者であること、および本件犯行後被害弁償に努め、殆んどその時価の全額に近い金員を弁償したとの所論の点は概ね肯認できるのであるが、本件犯行の動機、態様、殊に原判示第三の犯行は、同第一の犯行について起訴され、その保釈出所中に敢行されたものであること、被告人の前歴その他諸般の事情を考慮するときは、原審が被告人を懲役一年の実刑に処したのは相当であつて本当に重いものとは認められない。論旨は理由がない。

原弁護人の論旨について、

所論は、原判決が被告人Cは昭和二七年三月八日松江地方裁判所において賍物故買罪により懲役一年六月以上三年以下に処せられた事実を認め、原判示所為が右受刑事実と累犯の関係にあつて、刑の執行猶予の要件を満たさないものと解したのは、少年法第六〇条の解釈を誤り、法令の適用を誤つた違法があるとするものである。しかし、少年法第六〇条第一項の「人の資格に関する法令」には刑の執行猶予に関する刑法第二五条又は累犯に関する同法第五六条第五七条のような規定はこれに該当しないものであることは、既に大審院判例の示すところであり、かく解することが少年法制定の趣旨に反するものでなく、当裁判所も右見解を相当と認める。記録中の同被告人の前科調書によれば、原判示裁判は昭和二八年四月二一日確定し、(右刑は昭和二七年政令第二八号減刑令により懲役一年一月一五日以上二年三月以下に変更)昭和三〇年八月二〇日その執行を終つたことが明白で、右受刑の事実と原判示犯行とは刑法第五六条の累犯の関係にあつて、被告人は同法第二五条所定の執行猶予の要件を欠いているものというべきであるから、原判決が被告人に対し執行猶予を付せず、かつ累犯に関する法条を適用したのは相当で違法とすべき事由はない。論旨は理由がない。

よつて、刑事訴訟法第三九六条に則り本件控訴はいずれもこれを棄却すべきものとし、主文のとおり判決する。

(昭和三二年一一月一八日 広島高等裁判所松江支部)

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