最高裁判所第二小法廷 昭和32年(オ)1087号 判決 1961年4月28日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人浜口重利の上告理由第一、二点について。
賃借人が賃貸人の承諾を得ないで第三者をして賃借物を使用させた場合においても、賃借人の当該行為が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足らない特段の事情がある場合においては、賃貸人は、民法六一二条二項により契約の解除をなし得ないこと、当裁判所屡次の判例の趣旨とするところである(昭和二五年(オ)第一四〇号同二八年九月二五日第二小法廷判決民集七巻九七九頁、昭和二八年(オ)第一一四六号同三〇年九月二二日第一小法廷判決民集九巻一二九四頁、昭和二九年(オ)第五二一号同三一年五月八日第三小法廷判決民集一〇巻四七五頁)。そして原審の認定した一切の事実関係(殊に、本件賃貸借成立の経緯、本件家屋の所有権は上告人にあるが、その建築費用、増改築費用、修繕費等の大部分は被上告人安藤が負担していること、上告人は多額の権利金を徴していること、被上告人安藤が共同経営契約に基き被上告人福田に使用させている部分は、階下の極く一小部分であり、ここに据え付けられた回転式「まんじゆう」製造機械は移動式のもので家屋の構造には殆ど影響なく、右機械の取除きも容易であること、被上告人福田は本件家屋に居住するものではないこと、本件家屋の階下は元来店舗用であり、右転貸に際しても格別改造等を行なつていないこと等)を綜合すれば、被上告人安藤が家屋賃貸人たる上告人の承諾を得ないで被上告人福田をして本件家屋の階下の一部を使用させたことをもつて、原審が家屋賃貸人に対する背信的行為と認めるに足らない特段の事情があるものと解し、上告人のした本件賃貸借契約の解除を無効と判断したのは正当である。所論引用の判例は、本件と事情を異にし、本件に適切でない。論旨は、理由がない。
同第三点について。
被上告人安藤が上告人の承諾を得ないで被上告人福田をして賃借家屋の一部を使用させていることが、本件の場合、上告人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情がある場合とみるべきこと、前記のとおりであるから、被上告人福田の占有はこれを不法のものということはできないのであり、したがつて、原審が、被上告人福田は右占有使用を上告人に対抗することを得るものと判断したのは結局正当である。論旨は理由がない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)