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最高裁判所第二小法廷 昭和32年(オ)925号 判決 1958年3月28日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人鍛冶利一の上告理由一点について。

論旨は、本件差押物件のうち柱時計が営業上必要な物件でないことは、原審において被上告人が自白しているのに、原審がこれに反する事実を認定したのは違法であり、また右時計を営業上必要な物件と解したことは、国税徴収法一七条の適用を誤つたものである、というにある。

しかし、所論のような準備書面の記載や訴状の記載は、差押当時の状況を具体的事情として述べたに過ぎないものと解すべきであつて、これをもつて、営業上必要でない物件であることにつき裁判上の自白をしたものと解することはできない。又その柱時計が被上告人方玄関口の店舗に接続している帳場の柱に掛けられていたもので、被上告人の営業上必要な物件であるとの原審の判示もこれを首肯することができる。所論は採用できない。

同二点について。

論旨は、原審が延滞金及び督促手数料を除外して単に滞納元金だけを滞納処分の目的債権と認定したことは違法であるというにある。

しかし、仮に論旨のいうように本件滞納処分によつて満足を受くべき債権額が合計二五一〇円であるとしても、原審認定によれば、被上告人が本件差押に際し提供した被上告人所有の物件は小麦五、六叺(一叺四斗入、一斗当り四五〇円)と木炭九俵(一俵当り二八〇円)であつたというのであるから、提供された代替物件の価額が論旨の主張する滞納処分の目的債権をはるかに上回ることは明らかであり、従つて、原審が延滞金の存在につき何等判示しなかつたという違法は、原判決に何等の影響を及ぼすものではない。所論は採用できない。

同三点について。

論旨は、国税徴収法一七条による代替物件の提供は、差押の終了の時までになされなければならない旨主張し、原審が、その提供は収税官吏が差押物件を引揚げるか、又は差押物件である旨の表示を施して滞納者等にその保管を托すか両者のうち何れかの措置を最終的にとらないうちになせば足りると判断したのは同法条の解釈を誤つた違法がある、というにある。

しかし、原審の認定によれば、徴税吏員は被上告人所有の自転車及び柱時計の差押に当り、被上告人にその差押物件の保管方を申出たところ、被上告人はこれを拒絶すると共に右差押物件は被上告人の営業上必要な物件であるとの理由で、被上告人所有の小麦及び木炭を提供してこれを差押えられたい旨申出たことが明かである。かかる場合は法一七条による適法な提供がなされたものというべきであつて、徴税吏員は既に着手した差押をやめ、代替物につきその差押を追行すべきものと解するを相当とする。されば此点に関する原判決の判断は結局正当に帰し、所論は採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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