最高裁判所第二小法廷 昭和33年(し)85号 決定 1958年12月15日
主文
本件特別抗告を棄却する。
理由
本件特別抗告の理由は別紙書面記載のとおりである。
論旨第一点は、原決定が憲法三七条一項に違反するというにあるところ、記録によれば、申立人のした仙台高等裁判所第一刑事部裁判長裁判官篭倉正治、裁判官細野幸雄、裁判官岡本二郎を忌避する申立に対し、その裁判官所属の裁判所である同裁判所第二刑事部(裁判長裁判官門田実、裁判官山田瑞夫、裁判官有路不二男)が、昭和三三年一〇月二一日右申立を却下する決定をし、右決定は同月二四日申立人に送達されたこと、申立人は右決定の送達以前である同月二二日右詐欺暴行被告事件について前記第二刑事部の門田、山田、有路の三裁判官を忌避する申立をしたこと、および右忌避申立却下の決定は、忌避された第二刑事部の門田、山田、有路の三裁判官によってなされた違法のものである旨主張して、同裁判所に異議の申立をしたこと、これに対し同裁判所の刑事部(裁判長裁判官鈴木禎次郎、裁判官上野正秋、裁判官兼築義春)が「忌避された裁判官が忌避に関する裁判に原則として関与することができないのは、その裁判官にかかる忌避申立事件についてであって(刑訴法二三条三項)他の裁判官にかかる忌避申立事件についてはかような制限はない。」と判断して異議申立を棄却したことが認められる。ところで、右第二刑事部の忌避申立却下の決定は昭和三三年一〇月二一日成立したものである以上、右決定が申立人に送達される以前に決定をした裁判官を忌避する申立があったからといって、右決定が忌避された裁判官以外の裁判官によって適法に構成された裁判所の裁判であることの性質を失うものではない。そして、憲法三七条一項にいう「公平な裁判所の裁判」とは、偏頗や不公平の惧れのない組織と構成をもつ裁判所による裁判を意味するものであるところ(昭和二二年(れ)第一七一号同二三年五月五日大法廷判決)、原決定が、刑訴法の規定に従って適法に構成された裁判所によってなされた前記忌避申立却下の決定を、前述のごとき正当な理由によって支持したことは、なんら所論憲法の条項に違反するところはないから、所論は採るをえない。
論旨第二点は、違憲をいうけれども、刑訴二三条にいう「その裁判官所属の裁判所が、決定を」するというのは、忌避された裁判官所属の国法上の意味における裁判所の裁判官をもって構成される、訴訟法上の意味の裁判所が決定をする趣旨であり、原決定が支持した右忌避申立却下の決定は、適法に構成された裁判所であること前述のとおりであるから、違憲の主張は前提を欠くものであり、論旨第三点は、単なる法令違反の主張であって、いずれも特別抗告適法の理由とすることができない。
よって刑訴四三四条、四二六条一項により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)