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最高裁判所第二小法廷 昭和33年(オ)133号 判決 1960年2月12日

主文

原判決を破棄し、本件を仙台高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人皆川泉の上告理由第一点について。

本件において、被上告人(原告)は、家屋の所有権に基き、上告人(被告)に対し、その占有部分の明渡を求めたところ、上告人は、被上告人らとの間に使用貸借が存するものと主張し、被上告人は右の事実を認めたが、ついで上告人は、右主張を撤回し、上告人と被上告人の前主青麻友松との間には、右占有部分につき、賃料一ケ月一五円、毎月末日払、期間の定めのない約の賃貸借契約が成立しており、被上告人らは本件家屋の所有権を取得すると同時に、いずれも右賃貸借契約に基く権利義務を承継したものであると主張するにいたり、被上告人はこの事実を否認したものである。ところで、自白とは、自己に不利な事実の陳述をいうのであるから、以上の如き訴訟の経過に照らすと、本件において自白というべきものは、原審の判示した如く上告人の「本件家屋の占有は使用貸借に基くものである」との陳述ではなく、被上告人のなした「使用貸借の事実を認める」との陳述であり、その結果、上告人としては、使用貸借の事実については、立証を要しなくなつたものにほかならない。したがつて、上告人が右主張を撤回し、新たに賃貸借の主張をするにいたつたとすれば、立証を要しない主張を立証を要する主張に変更したにとどまり、これをいわゆる自白の取消ということはできない。されば、右主張の変更のためには、従前の主張が事実に反し且つ錯誤に基いたとの主張立証を要すると解すべきではなく、新な主張が「故意又ハ重大ナル過失ニ因リ時機に遅レテ」なされ、それがために「訴訟ノ完結ヲ遅延セシム」るか否かによつてその許否を決すべきものといわなければならない(民訴一三九条)。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。よつて、その余の論旨に対する判断を省略し、民訴四〇七条一項により本件を仙台高等裁判所に差し戻すべきものとし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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