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最高裁判所第二小法廷 昭和34年(オ)113号 判決 1962年7月20日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人横溝貞夫の上告理由第一点について。

所論過失相殺の主張は、第一審判決の事実摘示に記載がないところ、原審の第一回口頭弁論期日において、当事者双方が第一審判決事実摘示のとおり第一審口頭弁論の結果を陳述したこと及び事後の原審弁論において所論主張のなされなかつたことが記録上明白であるから、原判決が上告人らの所論主張につき何らの判断をもしなかつた点に、審理不尽、理由不備の違法はない。よつて所論は、採用できない。

同第二点及び第四点について。

原判決が本件契約解除による損害賠償請求を認容するにあたり、その損害賠償の範囲は解除当時における本件借地権の価格によると判断したことは正当である。右につき異を唱え、履行不能の生じた時を基準として右範囲を定めるべきであるとする所論は、独自の見解であつて採用できない。

なお、原判決が昭和二九年一二月当時の鑑定価格に原判示の事情を考量の上、本件契約解除時たる昭和三二年一月二四日当時の損害額を算定している点にも所論違法は存しない。

同第三点及び第五点について。

所論は、原判決が賃借権の債権たる法律的性質を無視し、これを物権と速断した上で本件損害の有無並びに損害額の算定判断に当つたことの違法をいうが、原判決並びにその引用にかかる第一審判決は、本件賃借権を以て物権であるとは毫末も判示していない。従つて右所論は既に前提を欠くものであつて採用できない。

また、本件賃借権すなわち本件土地を使用収益すべき賃借人の権利は、それ自体保護されねばならないのであつて、被上告人が官吏であること、他に住宅を有していることなど所論挙示の事情が存するかどうかは、本件賃借権を失つたことによる被上告人の損害の有無に何ら関係しないとして上告人の所論主張を排斥した点の原審判断(第一審判決引用)は、首肯できる。

なお、所論は、本件賃借権が譲渡並びに転貸禁止のものであることをいい、処分の可能性のない賃借権につき交換価値の算定は不可能であるとして原審判断の違法をいうが、右譲渡禁止の点については、原審において主張なく従つて認定もない事柄であり、本件賃貸借契約に転貸を認めない旨の約定があることだけでは賃借人が賃借土地を使用収益することによる利益に影響を及ぼすことなく、賃借権の評価にかかわりない旨の原審判断(第一審判決引用)は首肯できるから、右判断の違法をいう所論はすべて採用できない。

同第六点について。

所論は、本件契約解除時までに既に経過した契約期間だけ賃借人が利得しているから、原判示損害額を判定するにあたり右利得分は控除しなければならないのに原審がこの点を斟酌しなかつたことの違法をいうが、右利得の事実は、原審において主張なく認定もないから、所論は既にこの点で理由がない。なお、原審(第一審判決引用)が右損害額を判定するにつき所論賃貸借の経過年月を特に斟酌する要なしとしたことは、挙示の証拠関係並びに判示事情のもとで肯認できる。原審判断が公平の観念に反するとの所論は、独自の見解を述べるものであつて採用できない。

同第七点について。

所論は、被上告人において自らの権利に基づき本件土地占拠者たる訴外人らを退去せしめ得ることをいい、被上告人自ら右の権利行使の可能な限り上告人の債務不履行はあり得ないと主張し、また被上告人が右の権利の上に眠り自らその行使に出ないのは借地権を抛棄したものであると唱え、かつ被上告人の権利濫用をもいうが、所論はすべて、独自の見解を述べるにすぎず採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)

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