大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和34年(オ)1194号 判決 1962年8月10日

上告人 朴寄生 外四名

被上告人 大川新八

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人野村光治、同前田力の上告理由第一点について。

原審判決は、一審被告神原仁吉の訴訟承継人として朴寄生外四名を控訴人と表示しているけれども、記録に徴すると、右神原仁吉は大韓民国人であつて、同人には姜永泰(父)、朴寄生(母)、姜仁竜(長兄)、姜仁伍(次兄)、姜仁淑(妹)、姜仁植(末弟)があるところ、右神原仁吉は昭和三一年七月一五日死亡し、次いで同年九月右父姜永泰が死亡したこと、右神原仁吉は戸主ではなく、同人の死亡によつて開始された相続は遺産相続であること、同人には法律上の妻並びに直系卑属は存していなかつたこと及び前田力弁護士が一審以来引続き被告側の訴訟代理人となつでいることが明らかである。そして大韓民国においては、右神原仁吉及び父姜永泰死亡当時には、家族である未婚者の死亡した場合その遺産は家に在る父、父がないときは母がこれを相続すべき慣習並びに家族の一員である配偶者のある男子の死亡によつて遺産相続が開始された場合、その遺産は、被相続人の妻及び男女を問わずすべての直系卑属がこれを共同相続する慣習が存していたものと認めるのが相当であるから、右神原仁吉の死亡によつて開始された遺産相続については、まず、その家に在ると認めるべき前記父姜永泰がその相続人となり、次いで同人の死亡により開始された遺産相続については、(同人が戸主であつたと認め得る資料は何もない)同人の妻朴寄生及直系卑属たる右姜仁竜(姜仁伍、姜仁淑、姜仁植が共同相続人となつたものというべく、従つて右神原仁吉が被告として追行していた本件訴訟においては、結局、右朴寄生外前記四名の者がこれが訴訟承継人として右訴訟を追行する権能を有するものといわなければならない。してみれば、原審判決が亡神原仁吉訴訟承継人控訴人として前記五名の共同相続人を表示しても何等違法は存しないものといわねばならぬ。また原審判決が、右神原仁吉が朝鮮人であつて昭和三一年七月一五日死亡し、控訴人等が共同して相続により同人の権利義務を承継したことは当事者間に争いがないから、控訴人等は共同して被控訴人に対し本件建物を収去してその敷地たる本件土地を明渡すべき義務あること明らかである旨判示していることも、違法とはいえない。

論旨は、独自の見解に立つて原審判決を攻撃するに帰し、採るを得ない。

同第二点について。

論旨は、原審が控訴人姜仁竜の本人尋問を制限したのは審理不尽の違法があると主張するけれども、記録に徴するに、右尋問が制限されたことも、従つてまた当事者から右尋問の制限に対し異議の申立等があつた事跡も認められない。所論は、その前提を欠くものであつて採るを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)

上告代理人野村光治、同前田力の上告理由

第一点 原審裁判所は亡姜仁吉の相続人(訴訟受継人)を朴寄生、姜仁竜、姜仁伍、姜仁淑、姜仁植の五人とし何れも本件土地明渡の義務者(債務者)として判示したがこの点は誤りで亡姜仁吉の相続人(訴訟受継者)は朴寄生だけで他の四人は訴訟受継者ではない(大韓民国民法第九九六条)。従つて朴寄生以外の者は訴訟受継者の適格がないから原審判決は違法である。これにより朴寄生以外の四名に対しては本件土地明渡の義務はない。仮に控訴不適格者の姜仁竜が、亡仁吉の相続人が朴寄生外四人にあると証言してもこの身分関係はこの証言にき束されないし訴訟受継者の適否は職権調査事項であつて姜仁竜の自白に左右されないものである。

第二点 省略

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例