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最高裁判所第二小法廷 昭和34年(オ)335号 判決 1962年7月20日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人水田謙一、同江島晴夫の上告理由第一(一)について。

原判決は、訴外株式会社浜田組が被控訴人(被上告人)北谷の控訴会社(上告人)に対する債務を免責的に引受ける旨の判示契約の成立に関し、債権者である控訴会社代表者森宗達二が当初よりこれに関与して株式会社浜田組および被控訴人北谷と折衝を行い、最後に株式会社浜田組と被控訴人北谷間において合意の成立した判示内容の債務引受の約定につき株式会社浜田組と被控訴人北谷の求めに応じこれを承諾した旨を判示したものであつて、右判示事実によれば、本件債務引受契約は、控訴会社、被控訴人北谷、株式会社浜田組の三者間の合意により締結されたものというべきである。所論は、控訴会社が右債務引受契約の当事者とならなかつたことを前提として原判決の違法を云為するものであつて、所論は前提を欠くから採用できない。

同第一(二)について。

第三者が債務者の債務につき根抵当権を設定したところ、右債務につき免責的債務引受が行われたときは、右根抵当権は、設定者の同意がない限り、債務引受をした債務者のための根抵当権とならないと解すべきであつて、債務引受をした債務者がもとの債務者の連帯保証人であつたからといつて右の結論に影響を及ぼすものではない。所論は、以上と異る独自の見解によつて原判決を非難するものであつて、採用できない。

同第二について。

原判決は、訴外株式会社浜田組が控訴会社に対する被控訴人北谷の債務につき免責的債務引受契約をなすに際し、従前の保証および根抵当をいかに取扱うかについて何らの話合もなかつたのであるが、債権者である控訴会社の代表者森宗達二が単に法律の誤解により、右免責的債務引受が成立しても、被控訴人(被上告人)安井所有の不動産上に設定せられた本件根抵当権は当然に引続き存続するものと考えていたのにすぎない旨の事実を確定したものであつて、右確定事実によれば、控訴会社代表者の前示錯誤は、表示せられない動機の錯誤にすぎないから、これをもつて控訴会社の判示債務引受契約の承諾は、要素の錯誤として無効となるものではなく、所論引用の判例は本件に適切でない。原判決に所論の法令違反或いは理由不備の違法がなく、論旨は採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)

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