最高裁判所第二小法廷 昭和34年(オ)390号 判決 1962年4月20日
主文
本件上告および附帯上告をいずれも棄却する。
上告費用は上告人らの負担とし、附帯上告費用は被上告人(附帯上告人)の負担とする。
理由
上告人増田与尚、同三浦宗吉訴訟代理人村沢義二郎の上告理由一ないし三にいて。
所論は、訴外宮村真治が被上告銀行の代理人名義でその権限なくして訴外八田新製品工業株式会社および訴外八田善光に対し金四〇〇万円を貸与したものであることを前提とし、被上告銀行が訴外八田新製品工業株式会社に対し、右会社が前記借受金につき振出した約束手形の手形金請求訴訟を提起したことをもつて訴外宮村真治のなした右無権代理行為の追認であると主張するものであるが、上告人らは、原審において訴外宮村真治のなした前記貸付が被上告人銀行の代理人名義でなされた旨の主張をしておらず、従つてまた原判決もその旨の認定をなしていないのである。所論は、原審において主張せず、原判決の是認しない事実を前提として原判決の違法をいうものであるから、採用できない。
同四について。
身元保証法第五条は、同条所定の事情を斟酌して身元保証人の損害賠償の責任およびその金額を定めるよう規定しているが、身元保証人が保証債務の履行を遅滞した場合にその遅延損害金を如何にするかは同条の規定するところではない。また同条をこのように解しても、同法第六条の趣旨に反するものでもない。所論は、右の点について同条の適用あることを前提として原判決を非難するものであるから、採用できない。
被上告人訴訟代理人藤井剛士の附帯上告理由第一点について。
原審証人中谷正勝は、銀行の行員が行金横領の不正行為を行つても、銀行の帳簿尻と現金の現在高が一致するよう取繕つた場合には、普通の検査だけでこれを発見することは困難である旨証言するに止まり、本件の場合綿密に検査を実施すれば早期にこれを発見することが必ずしも困難でなかつた旨の原判決の判示を否定する趣旨のものではないから、原判決が右証言をもつて原判決の認定を左右するに足らない旨判示したのは相当であり、原判決に所論の理由不備、理由齟齬の違法はない。論旨は採用できない。
同第二点について。
本件記録に徴するも、原判決が原審における第一審原告の請求をもつて原判決判示の身元保証契約に基く保証責任の履行を求める請求であると解したことを失当とすることはできない。所論は、原審で主張しない事項をもつて原判決の判断遺脱理由不備をいうものであるから、採用できない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)