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最高裁判所第二小法廷 昭和34年(オ)922号 判決 1960年12月02日

上告人 井原良包

被上告人 国 外三名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由第一点について。

論旨は、原審が「本件係争土地は宮崎郡田野町字前平九、〇八〇番の土地を同所甲八、八一七番の一に合併したものである」と認定したのは、違法であるという。

しかし、原審(その引用する第一審判決)は何ら右のごとき事実を認定しているわけではないから、所論は、原判示に添わない議論であつて、採用するを得ない。

同第二点について。

原審確定の事実は、被上告国は明治二五年一二月一七日被上告人黒井先代初治、同弓削先代忠太、同大野先代藤平との間に国有地である本件係争地につき原判決のごとき部分林設定契約を締結し、爾来被上告人三名は右各先代に引き続き本件杉木を植裁管理して来たものであつて、右地上の立木は被上告人らの共有に属するというに在り、右原審の認定は、その挙示の証拠に徴し、首肯し得られるから、原判決には所論のごとき違法はなく、所論は採用するを得ない。

同第三点について。

本件土地が開拓者に売り渡されて既に国有地ではなくなつているとの所論事実は、何ら原審において主張、判断のなかつたところであつて、かかる事実をもつて原判決を論難する所論は採用するに足らない。

同第四点について。

当事者が口頭弁論期日に出頭したか否かは口頭弁論の方式に関するものとして調書によつてのみ証すべき事項であつて、調書には、被上告人黒井、同弓削、同大野が所論口頭弁論期日に出頭した旨の記載があるのであるから、これにより右被上告人らは所論期日に出頭したものと認めるの外なく、また、調書の記載洩れをいうが、それが如何なる内容の陳述についてであるかを明示していないから、所論もまた採用するを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 小谷勝重 藤田八郎 池田克 河村大助 奥野健一)

上告人の上告理由

第一点 事実理由不備(民訴法第一八五条違反)

原判決の確定するところによると本件係争土地は宮崎郡田野町字前平九、〇八〇番の土地を同所甲八、八一七番の一に合併したということになつている。

しかし甲第三号証(被上告人国が本字図中実地と図面とが符合せぬ部分数ケ所ありと指摘している以外の部分、被上告人国指定代理人鵜沼芳尾提出証拠説明参照)によると旧九、〇八〇番の土地と甲八、八一七番の一の土地とは接続していない。接続していない土地を合併するということは不可能のことであるし且つ、九〇八〇番なる土地は現在でも歴然として存在している。(乙第八号証参照)

更に甲八、八一七番地の一なる土地の所在地は甲第三号証並に甲第二号証の四(同図面中の西端に表示)にて一目瞭然である通り本件係争土地の所在地とは余りにも甚だしく隔りすぎている。

即ち、原判決は如上の事実を看過し被上告人国の虚構の主張を鵜呑みにし、何等事実や証拠に基くことなく却つて之等に反して漫然為されたるものにして全く空中楼閣、理由不備の違法あるもの当然破棄せらるべきものと信ず。

第二点 理由を附せず(民訴法第三九五条第六号違反)

本件訴訟の目的物は二つである。即ち所有権の確認と杉立木に対する損害賠償。

而して原判決はその中の一つ杉立木に対する損害金算出等については種々説明を加へているがその元である杉立木については被上告人黒井晋外二名の先代が植栽したものか上告人の前主の一人たる中村奈良吉の先代等が植林したものかの説明並びに理由について一言も触れていない。

被上告人等の主張によると本件杉立木は明治十七年に植栽ししたといふ。上告人が伐採したのは昭和二十七年夏であるから経験則に照らし伐採時に於ける樹令はすくなくとも七十年でなければならない。然るに第一審の鑑定人井野藤吾の鑑定の結果によると樹令は六十年となつており他に之をくつがえす何等の証拠もない。原判決は杉立木の帰属に対する説明はもちろん一言の理由も附していない。

これは民訴法第三九五条第六号に該当するもの当然破棄せらるべきものと信ず。

第三点 事実理由不備(民訴法第一八五条違反)

本件係争土地が仮りに昭和二十七年当時被上告人国の所有であつたと仮定しても

本件係争土地は開墾予定地の一部として昭和二十三年十月二日熊本営林局から宮崎県(開拓課)に引継がれ、その後開拓地として開墾せられ(第一審鑑定人井野藤吾の鑑定報告書中にもうかがわれる通り)各開拓者に昭和二十九年七月一日売渡され既に各々移転登記も完了せられ被上告人国には名実共に属していない然るに被上告人国は詐欺行為により本訴所有権確認の訴を提起し尚維持していることは不可解極まる行為である。

原判決は確たる証拠に拠ることなく漫然と被上告人国の主張を認めたることは事実並理由不備のそしりを免れない。当然破棄せらるべきものである。(因に上告人は右事実を明確ならしめたいと努力したが本件係争土地を含む開拓土地は前平甲九、一二一番の五外十数筆に分筆せられて登記してあり八、八一七番の一は何等移動なく書面上の関連が全然ないため遺憾ながら断念した次第である)

そもそも国は国民の為めに存在すべきもので国のため国民が存するものではない。

従つて国が訴訟の当事者である場合訴訟行為には自ら限度あり真実発見に協力すべきもので仮りに国に不利益な事実があつたとしても之を秘匿することなく明確ならしむる責務存在するものと信ずる。

いわんや国が詐欺行為に基き訴を提起したり又は勝敗にのみこだわる結果事実を秘匿したり虚偽虚構の主張陳述を為すが如き行為は絶対許さるべきものではない。

この点についての国の訴訟代理人のあり方に関する貴審の明快な御判示を仰き度切望する次第であります。

第四点 弁論調書に関する手続違背(民訴法第一四三条及第一四四条違反)

原審昭和三十四年六月十五日の口頭弁論調書には被控訴人国指定代理人熊谷英雄、被控訴人黒井晋、同弓削忠夫、同大野平三郎各出頭と記載されているが黒井晋本人は老人で既廿年近く床に就いたままで歩行不可能のもので到底期日に出頭することは想像も出来ない。出廷したのはその長男俊一であるが委任状提出の形跡もない。また弓削忠夫、大野平三郎両名の内そのいづれかの一名出頭したるにかかわらず共に出廷した如く記載されている。

尚上告人は右期日に於て相手方等に対し本件係争土地の保存登記の関係外二点に付き釈明を求め相手方において夫々陳述があつたはずであるがその要旨については何等記載されていない。之は明らかに公文書偽造といえるし、また手続違反たるをまぬかれない。当然破棄さるべきものと信ず。

これを要するに原判決はまつたく暴戻な、批判の価値すらない判決というべきで当然破棄さるべきものである。

上告人は原審において第一審判決の不当なる点を指摘したるにかかわらず之に対しては何等の理由も示すことなくこれを排斥したることは裁判官に一片の良心、職責に対する一片の情熱すらなきことを示すもので裁判の公正は勿論のことその職責感すら疑わしむるもの最大なりと謂うへく、若しその動機に不純の点なかりしものとせば国民を愚弄するものこれより甚だしきものなしと謂わなければならない。

以上

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