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最高裁判所第二小法廷 昭和35年(あ)2194号 判決 1961年5月26日

主文

本件各上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人国持質郎の負担とする。

理由

被告人国持質郎本人の上告趣意一、二について。

所論はいずれも事実誤認の主張であって適法な上告理由に当らない。

同三について。

所論は量刑不当の主張であって適法な上告理由に当らない。

被告人国持質郎の弁護人釘宮富の上告趣意について。

所論は判例違反をいうが挙示の判例は本件に適切ではなく、又違憲をいう点もあるが、原判決は被告人国持質郎の本件贈賄の事実を認定する資料として同被告人の自白のみならず他の多くの補強証拠をも挙示していること原判決及び第一審判決の各判文に徴し明白であるから所論違憲の主張もその前提を欠くものであり、結局所論の実質は事実誤認、量刑不当の主張に帰するものであって適法な上告理由に当らない。

被告人藤田芳治の弁護人熊谷林作の上告趣意第一点について。

所論は判例違反を主張する。そこで記録を調べてみるに、原審が昭和三五年七月二日第三回公判期日において弁論を終結したこと、その後同年同月三〇日附で弁護人から弁論再開申請書並びにその附属書類として証人足利峻、同桜庭康次両名の再尋問申請書及びその尋問事項書等が提出されたこと、原審は右再開申請に対し何等の決定も与えないで同年九月八日の第四回公判期日において判決を宣告したものであること、いずれも所論のとおりである。

さて現行刑訴三一三条一項は、「裁判所は、適当と認めるときは、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で、決定を以て、弁論を分離し若しくは併合し又は終結した弁論を再開することができる」と規定し、旧刑訴三五〇条におけるとは異り、当事者に終結した弁論の再開請求権を認めているのであるから、被告人又は弁護人から弁論の再開請求がなされたときは、裁判所は、弁論を再開するか否かについてはその裁量によって決すべきものであること勿論であるが、請求を容れて再開するか、又はその必要なしと認めて却下するか、いずれかの決定を与えなければならないものと解するを相当とする。しかるに原審は弁論再開請求に対して何等の決定をもした形跡が記録上存しない(右再開申請書の上欄に裁判長及び陪席裁判官の押印が存するけれども、それは同書面を閲読したことを意味するにとどまり、許否の決定をしたことを意味するものとは解せられない)のであるから、この点において、原審の訴訟手続には違法があり、所論引用の判例に違反しているものといわなければならない。しかし原審における所論再開の請求の理由は、所論証人両名の再尋問を求めるにあったものであるところ、記録上明らかであるように、右証人両名については、原審は既にこれが尋問をなしており、しかも所論の再尋問事項に関しても両証人共これに触れた供述をそれぞれなしていた点にかんがみれば、原審としては今更右両証人の再尋問のため弁論を再開する必要はないと認め、再開を許さないまま判決を宣告したものであると解せられるのであって、原審の右措置は正当である。されば原審が再開を許さないで判決を宣告するについては、判決宣告に先立ち、再開請求を却下する旨の決定を形式的にしなかった点違法であるというべきであるがそれは形式だけの違法であって、実質的には却下の決定がなされたものといい得べく、従って右形式だけの違法は原判決に影響を及ぼさないこと明らかである。故に所論は採るを得ない。

同第二点について。

所論は違憲をいうけれども実質は原審が弁論を再開しなかった措置を非難するものであって、審理不尽、事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張を出でないものであって、適法な上告理由に当らない。

同第三点について。

所論は量刑不当の主張であって適法な上告理由に当らない。

被告人沢田久の弁護人菅野次郎の上告趣意第一点について。

所論は事実誤認の主張であって適法な上告理由に当らない。

同第二点について。

所論は量刑不当の主張であって適法な上告理由に当らない。

また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条、一八一条(被告人国持質郎につき)により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)

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