最高裁判所第二小法廷 昭和35年(あ)2945号 判決 1962年5月04日
主文
本件上告を棄却する。
当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
弁護人倉本芳彦の上告趣意について。
所論は事実誤認、量刑不当の主張であって適法な上告理由に当らない。
弁護人浜田源治郎の上告趣意第一点について。
所論は事実誤認、単なる法令違反の主張であって適法な上告理由に当らない。(なお、古物営業法一七条にいう「その都度」とは、「そのたびごとに」の意に解すべきである。又同法二九条で処罰する「同法第十七条の規定に違反した者」とは、その取締る事柄の本質にかんがみ、故意に帳簿に所定の事項を記載しなかったものばかりでなく、過失によりこれを記載しなかったものをも包含する法意であると解した原審の判断は正当である。)
同第二点について。
所論は違憲をいうけれども、憲法三八条一項は、何人も自己が刑事上の責任を問われる虞ある事項について供述を強要されないことを保障したものと解すべきことは当裁判所の判例とするところである(昭和二七年(あ)第八三八号、同三二年二月二〇日大法廷判決、集一一巻二号八〇二頁)。そして古物営業法一七条が、古物商に対して、古物取引の年月日、その品目、数量及び特徴、相手方の住所、氏名、職業、年令及び特徴等を所定の帳簿に記載すべきことを命じ、これが違反に対して同法二九条が罰則を定めていることは所論のとおりであるが、同法がこれらの記帳を命じているのは、当該古物商の古物取引の実状を明確にし、その取引の適正を担保しようとするものであって、それ自体、何等刑事上の責任を問われる虞ある事項について供述を強要しているわけのものではない。
従って右各規定そのものは、憲法三八条一項に違反するものではないことは当裁判所の判例の趣旨とするところである(前記大法廷判例及び昭和二七年(あ)第四二二三号、同三一年七月一八日大法廷判決、集一〇巻七号一一七三頁参照)。それ故所論違憲の主張は採るを得ない。
また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
よって同四〇八条、一八一条一項本文により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)