最高裁判所第二小法廷 昭和36年(オ)135号 判決 1962年11月16日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人守屋勝男、同名波倉四郎の上告理由第一点について。
控訴審において訴の変更を許すことは違法でなく、かつ憲法に違反しないことは当裁判所の判例とするところである(昭和二七年(オ)第九七二号第一〇四一号同二八年九月一一日第二小法廷判決、集七巻九号九一八頁参照)。論旨は採用できない。
同第二点について。
本件は、土地を買戻したことを理由とする所有権移転登記請求訴訟の係属中、控訴人(上告人)が当該土地を他に売却しその所有権移転登記を経由したことを理由に請求を損害賠償請求に変更したものであつて、その請求の基礎に変更がなく、かつ本件訴訟の経過に照し著しく訴訟手続を遅滞させるともいえないから、原審が右訴の変更を許容したことは適法である。論旨は採用できない。
同第三点について。
所論の点に関する原判決引用の第一審判決の判断は、その所掲の証拠に照し肯認できるから、所論は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰する。論旨は採用できない。
同第四点について。
債務の目的物を債務者が不法に処分し債務が履行不能となつたとき債権者の請求しうる損害賠償の額は、原則としてその処分当時の目的物の時価であるが、目的物の価格が騰貴しつつあるという特別の事情があり、かつ債務者が、債務を履行不能とした際その特別の事情を知つていたかまたは知りえた場合は、債権者は、その騰貴した現在の時価による損害賠償を請求しうる。けだし、債権者は、債務者の債務不履行がなかつたならば、その騰貴した価格のある目的物を現に保有し得たはずであるから、債務者は、その債務不履行によつて債権者につき生じた右価格による損害を賠償すべき義務あるものと解すべきであるからである。ただし、債権者が右価格まで騰貴しない前に右目的物を他に処分したであろうと予想された場合はこの限りでなく、また、目的物の価格が一旦騰貴しさらに下落した場合に、その騰貴した価格により損害賠償を求めるためにはその騰貴した時に転売その他の方法により騰貴価格による利益を確実に取得したのであろうと予想されたことが必要であると解するとしても、目的物の価格が現在なお騰貴している場合においてもなお、恰も現在において債権者がこれを他に処分するであろうと予想されたことは必ずしも必要でないと解すべきである。原判決は、本件土地の時価が控訴人(上告人)の処分当時より現在(原審口頭弁論終結時)まで判示のように騰貴を続け、控訴人が右処分時において本件土地の時価が、このように騰貴することを知つていたか、少くともこれを予見しえたものと認定し、控訴人に対し現在の時価の範囲内で控訴人の本件土地の判示処分により被控訴人(被上告人)の受けた損害の賠償責任を認めたものであるから、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例は本件に適切でない。論旨は採用できない。
よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
裁判官藤田八郎は、退官につき評議に関与しない。
(裁判長裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)