最高裁判所第二小法廷 昭和36年(オ)868号 判決 1962年11月09日
主文
原判決中上告人深江喜行に関する部分を破棄し、右部分につき本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
上告人深江寿の本件上告を棄却する。
前項の部分に関する上告費用は上告人深江寿の負担とする。
理由
上告代理人柴田健太郎の上告理由第一点について。
被上告会社は、昭和二五年一二月一日から訴外深江武利および中村喜叟両名と、代金は毎月末払の約にて肥糧の取引を始め、右取引に当り、爾後これによつて生ずる右両名の被上告会社に対して負担すべき債務につき、上告人深江寿、訴外深江喜三太、同中村与叟、同柴田治郎太の四名においてこれを連帯保証したこと、そのうち中村与叟、柴田治郎太は、中村喜叟の、上告人深江寿、深江喜三太は深江武利の各連帯保証人であつたこと、昭和二六年一二月一日頃からは右深江武利が単独で被上告会社と取引を続け、上告人深江寿および深江喜三太が依然として前記連帯保証人の地位にあつたこと、被上告会社が本訴で請求する一〇〇万円は、深江武利が右取引に関し昭和三二年九月一一日から同三三年三月一〇日までの間に被上告会社に対して負担した三、〇一一、〇五三円の肥糧売掛代金債務の一部についての保証債務の履行を求めるものであること、深江喜三太は、右期間より以前である昭和三二年六月七日すでに死亡し、同人の長男たる上告人深江喜行がその遺産につき三分の一の割合をもつて相続したものであることは、いずれも、原判決が確定した事実である。
右事実関係のもとにおいては、上告人深江寿の被上告人に対して負担する本件連帯保証債務に身元保証ニ関スル法律一条が準用され、その契約期間が保証契約成立の日より三箇年に限定されるべきであるとの所論は、ひつきよう、独自の見解というほかはなく、その他同上告人の債務をとくに制限した範囲に限るべき法律上の根拠も見出し難いから、右論旨は採用することができない。
しかしながら、論旨が身元保証ニ関スル法律一条の準用を主張する趣旨は、要するに、本件保証債務が一定の限度に制限されるべきであるとの主張を包含するものと解すべきところ、按ずるに、前記原判示のような継続的取引について将来負担することあるべき債務についてした責任の限度額ならびに期間について定めのない連帯保証契約においては、特定の債務についてした通常の連帯保証の場合と異り、その責任の及ぶ範囲が極めて広汎となり、一に契約締結の当事者の人的信用関係を基礎とするものであるから、かかる保証人たる地位は、特段の事由のないかぎり、当事者その人と終始するものであつて、連帯保証人の死亡後生じた主債務については、その相続人においてこれが保証債務を承継負担するものではないと解するを相当とする。されば、本件において、連帯保証人深江喜三太の死亡後、被上告会社と深江武利との取引によつて発生した主債務につき、特段の事由の存することを判示することなくして、漫然深江喜三太の相続人たる上告人深江喜行に連帯保証人としての支払義務あるものとした原判決は、本件連帯保証契約の性質を誤解したか、もしくは理由不備の違法があるものというべく、上告人深江喜行についての論旨は理由があり、論旨第二点についての判断をまつまでもなく、原判決中同上告人に関する部分は破棄を免れない。そして、前記の点について、なお本件は審理判断の要があるから、右部分につき本件を原裁判所に差し戻すことを相当とする。
同第三点について。
裁判所が証拠を排斥するについては、その理由を逐一判示する必要はなく(最高裁昭和三二年六月一一日第三小法廷判決、民集一一巻一〇三〇頁参照)、原判決(第一審判決引用)の挙示する証拠によれば、原判示は首肯しうるから、論旨は理由がない。
よつて、民訴四〇七条、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 裁判官 草鹿浅之介)