最高裁判所第二小法廷 昭和37年(オ)914号 判決 1964年1月24日
上告人
川又兵次郎
被上告人
宇和島市
右代表者市長
中川千代治
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告人の「上告理由」と題する書面記載の上告理由第一点ないし第六点、第八点ないし第一〇点並びに「上告趣意書」と題する書面記載の上告理由第一点ないし第六点について。
論旨は、いずれも、家賃台帳の作成、登載行為が行政事件訴訟特例法一条にいう行政庁の処分にあたると主張し、そのことを前提として、原判決には証拠法則違背、審理不尽、理由不備、理由齟齬、判断遺脱の違法があるというのである。
市町村長が地代家賃統制令一四条の規定に基づき家賃台帳に家賃の停止統制額または認可統制額その他法所定の事項を記入する行為は、借家の家賃に停止統制額または認可統制額の存在することおよびその金額等につき、公の権威をもつてこれらの事項を証明し、それに公の証拠力を与えるいわゆる公証行為であることはいうまでもない。しかし、それは、元来家賃台帳を市役所または町村役場に備えつけ公衆の閲覧に供することによつて右の事項を一般に周知徹底させて統制額を超える契約等を防止し、あわせて行政庁内部における事務処理の便益に資せんことを目的とするに過ぎないものであつて、もとよりその行為によつて新らたに国民の権利義務を形成し、或いはその範囲を確認する性質を有するものではない。それ故、本件家賃台帳の作成、登載行為をもつて行政事件訴訟特例法一条にいう行政庁の処分にあたらないとした原判決(その引用する第一審判決)の判断は、正当であつて、論旨は、すべてその前提を欠くに帰し、採用できない。
上告人の「上告理由」と題する書面記載の上告理由第七点について。
論旨は、証拠の採否に関する原審の措置が違法であることを違憲に名をかりて主張するに過ぎないものであるから、違憲の主張としては不適法であつて、採用の限りでない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)
上告人の上告理由(前略)
第八点 第一審判決は判決に影響を及ぼすべき重要な事項に付判断を遺脱した違反がある。判断遺脱の第三
(一) 憲法で保障されている地方自治公共団体ではあるが被上告人下級公務員の職務上本件行政処分行為は明らかに
(1) 地代家賃統制令第十四条第二項の違反である。
(2) 行政事件訴訟特例法第一条の本来無効な処分である。
(3) 右公務員の行政処分の事務行為は不法行為にして憲法に適合しないこと顕著な憲法違反である。
(4) 第一審判決理由は家賃台帳作成記載行為の如きは関係者の法律上の地位に変動を生ぜしめる法律効果は伴はない又保護に価する利益もない従て侵害もないので行政処分としての性質を有しないと判示したが判断を遺脱のた違反がある。
確認訴訟の要件として法律関係を証する書面は其内容から直接一定の権利関係の成立存否が証明されるのであるから例ば定款、寄附行為、遺言書、契約書、其他行政官庁の処分証書及び通知書等之に属するので被上告人下級公務員の本件行政処分行為、家賃台帳作成行為は右に該当する。
従て法律上の地位、権利、利益も包含されるのである。
然るに第一審判決理由は被上告人の行為は行政訴訟の対象にはなり得ぬと判断の遺脱をした違法がある。(以下省略)