最高裁判所第二小法廷 昭和38年(オ)146号 判決 1964年1月24日
上告人
田中茂
ほか三名
被上告人
力丸要市
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告人らの上告理由(上告状記載のものを含む)について。
金銭は、特別の場合を除いては、物としての個性を有せず、単なる価値そのものと考えるべきであり、価値は金銭の所在に随伴するものであるから、金銭の所有権者は、特段の事情のないかぎり、その占有者と一致すると解すべきであり、また金銭を現実に支配して占有する者は、それをいかなる理由によつて取得したか、またその占有を正当づける権利を有するか否かに拘わりなく、価値の帰属者即ち金銭の所有者とみるべきものである(昭和二九年一一月五日最高裁判所第二小法廷判決、刑集八巻一一号一六七五頁参照)。
本件において原判決の認定した事実によると、訴外藤野太一は上告人丹部忠男をだまして一一万円余の交付をうけ、自己が上告人らから依頼されて経営に従事していた判示店舗の売上金六万余円を加えた金一七二、三〇〇円を、自己の銀行預金を払戻した自己の金であるといつて執行吏に提出したというのであるから、一一万円余い上告人丹部忠男から交付をうけたとき、六万余円は着服横領したとき、それぞれ訴外藤野太一の所有に帰し上告人らはその所有権を喪失したものというべきである。これと同趣旨の原判決の判断は正当であつて、これを誤なりとする論旨は理由なく、違憲の主張も前提を欠き採用しえない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)
(上告理由省略)