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最高裁判所第二小法廷 昭和38年(オ)216号 判決 1970年10月30日

上告人

八木秀次

外四名

代理人

沢田竹治郎

秋山賢蔵

矢内原泉

被上告人

右代表者

小林武治

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人沢田竹治郎、同秋山賢蔵、同矢内原泉の上告理由第一ないし第四点について。

原審の確定した事実関係によると、昭和二八年四月二四日に行なわれた参議院全国選出議員五〇名(任期六年)および同補欠議員(任期三年)の合併選挙に際し、上告人八木は日本社会党から、同大谷および関根は日本自由党から、同柏木および楠見は緑風会からそれぞれ公認されて立候補し、上告人関根および大谷は通常議員に、その余の上告人らは補欠議員に当選した。ところが、右選挙に際して、佐野市選挙管理委員会は、公職選挙法一七三条(昭和三一年法律第一六三号による改正前のもの)および一七四条(同二九年法律第二〇七号による改正前のもの)の定めに従い、同年四月一四日から前記選挙当日まで同市内二一箇所に設けられた投票所の入口その他公衆の見やすい場所に全候補者の氏名および党派別の掲示をしたが、右掲示には、同選挙管理委員会の職員の過失により、日本社会党から公認されて立候補した訴外平林剛の党派を日本共産党とする誤記があつた。そこで、訴外平林は右選挙のうち佐野市における選挙を無効とする旨の訴を提起したところ、最高裁判所は、昭和二九年九月二四日、右訴につき、右掲示の誤記は公職選挙法一七三条の規定に違反し、かつ選挙の結果に異動を及ぼす虞があるものとして、「本件参議院全国選出議員選挙のうち佐野市における選挙を無効とする。但し、右選挙における当選人五三名のうち訴外大倉精一および上告人らを除いた四七名は、その当選を失わない」旨の判決を言い渡し、上告人らは当選を失つた。その結果、昭和二九年一〇月七日、佐野市において再選挙が行なわれ、上告人楠見は落選したが、その余の上告人らはそれぞれ通常議員または補欠議員に当選した、というのであり、本訴における上告人らの主張は、上告人らは、右選挙において、いずれもいつたんその当選人になりながら前記掲示の誤記によつて選挙が無効とされたために、再選挙のための選挙運動費用の支出を余儀なくされ、また選挙無効の訴が提起された後、再選挙の結果が判明するまでの間に多大の精神的苦痛を被り、また、上告人楠見は、右のように選挙が無効となることがなければ議員の資格を失わず、歳費の支給を受けることができたのに、選挙が無効となつたためこれを受けることができず、原判示のような損害を被つたが、右は、いずれも前記佐野市選挙管理委員会の職員の過失による党派別掲示の誤記に起因するものとして、被上告人に対しその賠償を求める、というにある。

ところで、上告人らの所論損害が佐野市選挙管理委員会職員の過失による平林剛の所属党派の誤記に起因するということは、その誤記がなかつたならば上告人らが前示合併選挙における当選を失うことがなかつたにかかわらず、誤記があつたため当選を失つたことにより、所論損害を生じたというに帰着するのであるから、上告人らの本訴請求な、平林剛の所属党派の誤記という瑕疵のない選挙が行なわれたと仮定した場合にも上告人らが当選し得たであろうことを前提とするものと解すべきである。しかるに、ある候補者の所属党派の誤記は、当該候補者のみならず、他の候補者にとつても、不利な影響を及ぼす可能性がある反面、有利な影響を及ぼす可能性もまた多分に存するのであつて、前示誤記が佐野市における各候補者の得票数に及ぼした具体的影響を判別し、誤記のなかつた場合における各候補者の得票数を想定して上告人らが当選し得たか否かを判定することは、不可能に属するといわなければならない。したがつて、上告人らの本訴請求は、前示前提を次くといわざるを得ないから全部失当としで棄却を免れない。原判決は、その理由を異にするけれども、上告人らの請求を棄却すべきものとした結論において正当であり、論旨は理由なきに帰する。

よつて、民訴法四〇一条に従い本件上告を棄却すべきものとし、訴訟費用につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用し、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(草鹿浅之介 城戸芳彦 色川幸太郎 村上朝一)

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