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最高裁判所第二小法廷 昭和38年(オ)5号 判決 1967年4月28日

上告人 岡部勇二

被上告人 国

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について。

論旨は、司法修習生が国家公務員等退職手当法にいう国家公務員又はこれに準ずるものにあたらないとした原審の判断が同法二条、裁判所法第四編第三章の解釈を誤り、また、著しく正義に反するものである、という。

国家公務員等退職手当法(以下単に退職手当法という。)は、その適用を受ける者の資格を、国家公務員又は公社職員のうち、常時勤務に服することを要するもの(かかる国家公務員又は公社職員を「職員」という。以下同じ。)及びその勤務形態が職員に準ずるものであつて政令で定めるもの、と規定している(二条、参照)。

ところで、退職手当法は、その適用資格者としての国家公務員の意義及び範囲については別段規定を設けるところがなく、もとより、これを一般抽象的に定めた法律も存在しない。しかし、同法は、国家公務員又は公社職員が退職した場合にその勤務を報償する趣旨でこれらの者に対して退職手当を支給することを目的とするものであるから(一条参照)、その支給を受け得る国家公務員が国家公務員法上の国家公務員であることを予定しているものと解するのが相当である。しかるに、司法修習生は、司法試験に合格した者が裁判官、検察官又は弁護士となる資格を取得するための修習を行なうものであつて(昭和二三年最高裁判所規則第一五号司法修習生に関する規則四条参照)、国の事務を担当するものでないこと、また、裁判所法が司法修習生と国家公務員法上の国家公務員であることを明らかな「裁判官以外の裁判所職員」とを区別する規定を設けており(第四編第二章及び第三章参照)、司法修習生に関する規則二条も、司法修習生が国家公務員法上の国家公務員でないことを前提として、「司法修習生は、最高裁判所の許可を受けなければ、公務員となる………ことができない。」と規定していること等に徴すれば、司法修習生は、退職手当法にいう国家公務員ではないといわざるを得ない。

もつとも、司法修習生は、前叙のごとく、裁判官、検察官又は弁護士となる資格を取得するための修習を行なうものであつて、その修習を終えることが、判事補や二級検察官に任命されるための要件となつており(裁判所法四三条、検察庁法一八条参照)、修習期間中は、国庫から一定額の給与を受けるほか、暫定手当、扶養手当等の諸手当や「公務のため旅行する国家公務員等」として司法研修所入所、滞在などに必要な旅費の支給を受けることになつており(裁判所法六七条二項、裁判官の報酬等に関する法律附則一四条、裁判官の報酬等の応急的措置に関する法律八条、九条、裁判官報酬等暫定規則一条、国家公務員等の旅費に関する法律参照)、また、司法研修所長の統轄に服し、配属地の高等裁判所長官等の監督を受け(司法修習生に関する規則一条、八条参照)、兼職を禁止され(同規則二条参照)、修習にあたつて知り得た秘密を漏らしてはならない義務を負い(同規則三条)、一定の事由があるときは、その意に反して罷免される(同規則一七条、一八条参照)こととなつている。しかし、これらのことはすべて、司修習生をして右の修習に専念させるための配慮ないしはその修習が秘密事項に関することがあるための配慮にすぎないのであり、司法修習生の勤務形態が国の事務に従事する職員に類似し又はこれに準ずる形式ないし実態があるからではない。従つて、以上の取扱いを根拠として司法修習生を退職手当法の適用を受け得る職員に準ずるものであると解することは許されない。そればかりでなく、退職手当法の適用を受け得るためには、たとえ勤務形態が職員に準ずるものであうても、政令によつて職員とみなされる旨の規定が設けられていなければならないことは、冒頭叙説のとおりであるところ、司法修習生は、右の政令である退職手当法施行令が職員とみなされるものとして列挙した者の中に含まれていないこと明らかである。以上説示の理由により、司法修習生は退職手当法にいう職員とみなされるものにもあたらないといわなければならない。

上告人は、司法修習生が国家公務員共済組合法上裁判所共済組合の組合員(国家公務員又はこれに準ずるもの。)として各種の給付を受けていることから、司法修習生にも退職手当法の適用を認めるべきである、と主張する。しかしながら、国家公務員又はこれに準ずるものの意義及び範囲は、それがすべての法律を通じて同一でなければならないという法理はなく、各法律ごとにその趣旨・目的に照らして合理的にこれを決定するよりほかはないのである。そして、国家公務員共済組合法は、相互扶助の精神に基つき、組合員の掛金と国の負担金とで構成する資金をもつて(九九条参照)組合員又はその被扶養者の病気、災害等に際し適切な給付を行なわんとするものであつて(一条参照)、受給者に費用の一部を負担させることのない退職手当法とは、趣旨・目的を同じくするものでない。それ故、所論のごとく、司法修習生が国家公務員共済組合法上国家公務員に準ずるものとして取り扱われているからといつて、司法修習生が退職手当法にいう国家公務員又はこれに準ずるものにあたると解すべきいわれはないのである。

されば、叙上と同趣旨に出た原判決は、正当であつて所論の違法はなく、論旨は、排斥を免かれない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 奥野健一 城戸芳彦 石田和外 色川幸太郎)

上告人の上告理由<省略>

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