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最高裁判所第二小法廷 昭和39年(オ)1267号 判決 1965年6月18日

上告人

後藤利満

代理人

諏訪徳寿

被上告人

菊池春二

ほか一名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人諏訪徳寿の上告理由について。

原審の確定するところによれば、亡後藤寅一は上告人に対し何らの代理権を付与したとこなく代理権を与えた旨を他に表示したこともないのに、上告人は寅一の代理人として訴外遅沢に対し寅一所有の本件土地を担保に他から金融を受けることを依頼し、寅一の印鑑を無断で使用して本件土地の売渡証書に寅一の記名押印をなし、寅一に無断で同人名義の委任状を作成し同人の印鑑証明書の交付をうけこれらの書類を一括して遅沢に交付し、遅沢は右書類を使用して昭和三三年八日八日本件土地を被上告人菊池に代金二四万五千円で売渡し、同月一一日右売買を原因とする所有権移転登記がなされたところ、寅一は同三五年三月一九日死亡し上告人においてその余の共同相続人全員の相続放棄の結果単独で寅一を相続したというのであり、原審の前記認定は挙示の証拠により是認できる。

ところで、無権代理人が本人を相続し本人と代理人との資格が同一人に帰するにいたつた場合においては、本人が自ら法律行為をしたのと同様な法律上の地位を生じたものと解するのが相当であり(大判・大正一五年(オ)一〇七三号昭和二年三月二二日判決、民集六巻一〇六頁参照)、この理は、無権代理人が本人の共同相続人の一人であつて他の相続人の相続放棄により単独で本人を相続した場合においても妥当すると解すべきである。したがつて、原審が、右と同趣旨の見解に立ち、前記認定の事実によれば、上告人は遅沢に対する前記の金融依頼が亡寅一の授権に基づかないとこを主張することは許されず、遅沢は右の範囲内において寅一を代理する権限を付与されていたものと解すべき旨判断したのは正当である。そして原審は、原判示の事実関係のもとにおいては、遅沢が右授与された代理権の範囲をこえて本件土地を被上告人菊池に売り渡すに際し、同被上告人において遅沢に右土地売渡につき代理権ありと信ずべき正当の事由が存する旨判断し、結局、上告人が同被上告人に対し右売買の効力を争い得ない旨判断したのは正当である。所論は、ひつきよう、原審の前記認定を非難し、右認定にそわない事実を前提とする主張であり、原判決に所論の違法は存しないから、所論は採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 山田作之助 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)

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