最高裁判所第二小法廷 昭和39年(オ)1336号 判決 1965年9月24日
上告人
中村六郎
代理人
高木定義
被上告人
芳野明徳
主文
原判決を破棄し、本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人高木定義の上告理由第三点について。
論旨は、吉村昭義の選任監督について上告人は全然過失がないのに、上告人に損害賠償責任を負わせた原判決は、法令違背の違法がある、という。
上告人は、原審において、上告人は被用者たる吉村の選任およびその事業の監督につき相当の注意をしたものであるから、上告人に本件損害賠償の義務はない、と主張していること、原判決事実摘示に照らし明らかである。しかるに、原判決は、運送人たる吉村は占有者たる上告人に代つて本件馬を保管するものに該当すべきことは当然であるとしながら、本件事故は吉村の過失によつて発生した以上、上告人は民法七一八条一項の規定により本件損害賠償の義務を免れない、と判断し、前記上告人の主張については、なんら判断を示していないのである。
しかし、民法七一八条一、二項を比較対照すれば、動物の占有者と保管者とが併存する場合には、両者の責任は重複して発生しうるが、占有者が、自己に代りて動物を保管する者を選任して、これに保管させた場合には、占有者は「動物ノ種類及ヒ性質ニ従ヒ相当ノ注意ヲ以テ其保管」者を選任・監督したことを挙証しうれば、その責任を負わないものと解するのが相当である。従つて、吉村昭義の選任監督について上告人に過失があつたかどうかが上告人の責任の有無を決定するものであるに拘らず、この点に関する上告人の主張について判断を加えてない原判決は、民法の解釈を誤つたか、または審理不尽の違法があるといわなければならない。論旨は理由があり、原判決を破棄し、右の点を審理させるため原審に差し戻すべきものとする。
よつて、その余の上告理由についての判断を省略し、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外 山田作之助は外国出張につき署名押印できない)