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最高裁判所第二小法廷 昭和39年(行ツ)111号 判決 1965年9月24日

上告人

吉田惣一

代理人

岩野稔

被上告人

佐世保税務署長

野田信一

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人岩野稔の上告理由について。

論旨は、要するに、求償権が事実上取立不能であるというがごとき事情は譲渡所得の成否に何らの影響をも及ぼすものでないとした原審の判断に法令の解釈適用を誤つた違法がある、という。

抵当権実用のためのいわゆる任意競売は、担保権の内容を実現する換価行為であつて、競落人は目的不動産の所有権を承継取得するものであるから、所得税法九条一項八号にいう資産の「譲渡」に該当するというべきである。しかして、資産の譲渡によつて発生する譲渡所得についての収入金額の権利確定の時期は、当該資産の所有権その他の権利が相手方に移転する時であるが、任意競売における所有権移転の時期は競落代金納付の時と解するのが相当である(大審院昭和七年二月二九日判決、民集一一巻六九七頁参照)から、競売による譲渡所得については、代金納付の時に権利が確定する、というべきである。

ところが、所論代位弁済による求償権は、代金納付後、担保権者に代金交付がなされることにより、その代位弁済的効果として発生する権利であつて、所論のごとく、競売の対価たる性質を有するものではない。それ故、譲渡所得の対象は競落代金そのものであつて、求償権の取立が事実上不能であるとしても、かかる事情は、譲渡所得の成否に何等の消長をもきたすものではないといわなければならない。

されば、叙上と同趣旨に出た原判決は正当であつて所論の違法はなく、論旨は、独自の見解に立脚するものであつて採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。(奥野健一 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)(裁判官山田作之助は外国出張につき署名押印することができない)

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