最高裁判所第二小法廷 昭和41年(あ)1139号 決定 1967年5月26日
主文
本件上告を棄却する。
理由
被告人本人の上告趣意は、単なる法令違反の主張であり、弁護人島信行の上告趣意は、判例違反をいう部分もあるが、その判例を具体的に示さず、その余の論旨は、単なる法令違反、事実誤認の主張であって、いずれも適法な上告理由にあたらない。
(盗犯等の防止及処分に関する法律一条二項は、同条一項各号の場合において、自己または他人の生命、身体または貞操に対する現在の危険がないのに、恐怖、驚愕、興奮または狼狽により、その危険があるものと誤信して、これを排除するため現場で犯人を殺傷した場合に適用される規定であって、行為者にそのような誤信のない場合には適用がないものと解するのが相当である。記録を調べてみると、被告人は、自宅からの退去要求に応じない松岡四郎を屋外に退去させるため一審判示のような暴行を同人に加えたものであって、当時相当興奮していたことは認められるが、自己または他人の生命、身体または貞操に対する現在の危険があると誤信していた事実は認められないから、本件が前記法律一条二項にあたらないとした原審の判断は、その結論において正当である。)
よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 色川幸太郎)