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最高裁判所第二小法廷 昭和41年(あ)3073号 決定 1967年5月24日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人李泰翊本人の上告趣意は、憲法三八条違反を主張する点もあるが、実質は単なる法令違反、量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

同被告人の弁護人土肥倫之の上告趣意は、量刑不当の主張であって、同条の上告理由にあたらない。(記録によれば、被告人李泰翊の関係において、一審の有罪判決に対し、同被告人および検察官から、それぞれ控訴の申立があったが、同被告人のみ一たん申し立てた右控訴を取り下げたこと、原審は、検察官の控訴趣意について審理判断したうえ、結局検察官の控訴を理由なしとしてこれを棄却したことが認められる。ところで、刑訴法三六一条は、「上訴の放棄又は取下をした者は、その事件について更に上訴をすることができない」と規定しているが、これは、上訴の放棄または取下をした者でもさらに上訴をすることができるとすると、上訴の放棄または取下があっても、上訴の提起期間中は、それだけではまだ原裁判が確定したとみることができないため、裁判確定の時期が一時不明瞭になる場合を生じ、訴訟関係の明確性を害するためであると解される。そうしてみると、この規定は、その趣旨にかんがみ、同一審級においてのみ適用のある規定であると解すべきであって、本件のように控訴の取下をした被告人に対し、控訴審の判決に対する上告まで禁ずる趣旨のものと解すべきではない。そして、このことは、たとえ右控訴審の判決が相手方である検察官の控訴を棄却したにとどまる場合であっても、同様であると解する。そうすると、被告人李泰翊が、検察官の控訴を棄却した原判決に対し、本件上告を申し立てたことは、その限りにおいて、違法はないものというべきである。)

被告人須磨章本人の上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張であり、同被告人の弁護人杉本良三の上告趣意は、事実誤認、量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

また、記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって、同四一四条、三八六条一項三号、一八一条一項但書により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 色川幸太郎)

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